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――コレデ、フタリメ。





四野岬で、浅倉はまたしても担架を見送っていた。
見回りを強化しても、またこうして死人が出る。
野口が言った。
「今度の被害者もまた誰かの加害者なんでしょうか」
「……かも知れないな」
浅倉は、岬を見上げた。
四野岬の飛び降り自殺。
大半は岬にいる何者かによる仕業だろうとは思う。
そして、その自殺者もしくは被害者が誰かの加害者だった事例は確かに多い。
だが。
そうでない事例も中には存在する。
例えば、半年前の若い女性のケース。
彼女の場合は、身籠ったが男に捨てられたことが原因の自殺と断定された。
さて、今回はどうだろうか。




村田が死んだ。
あの気の弱い男が。
四野岬から飛び降りたという。
……消された。
反射的にそう思った。
自殺とは思えない。
きっと、最後の男に殺されたのだ。

――陽菜(ひな)と同じように。

最早、陽菜が自殺したとは思えなくなっていた。
何故、2人は死んだのか。
これは、同一犯による殺人なのか。
それなら何故、四野岬なのか。
自殺に見せかけるなら、別に岬に行かなくてもいいのに。
四野岬が自殺の名所だからだろうか?
――分からない。



「びっくりしましたよ……」
吉野は通夜の席で囁いた。
「まさか、ノブさん変なこと言ったんじゃ……」
そう言われて、俺はジロッと吉野を睨んだ。
「……何でお前がいるんだよ」
そんなに仲良かったか?と問うと、
「彼女が村田の同僚で」
奴はそう言って受付の方を見た。
受付には見目麗しい数名の女性がいたが、きっとあのうちの誰かだろう。
2号か3号かは定かではない。
「俺なんかより、ノブさんが通夜に来る方が変ですよ」
それはそうだと俺も思う。
そう言えば、と吉野は言った。
「付き合ってた頃、陽菜の話にはよく『ノブ君』出て来てましたよ」
吉野は目を伏せた。
「俺も随分と見たこともない『ノブ君』に嫉妬しました」
……自分は普通に二股も三股もかけるくせに。
俺は密かにそう思った。



通夜の参列者を見に行く。
それが今夜の目的だったりする。
「……付き合ってる女が通夜の手伝いに行くからって何で通夜に出るかな」
「一応、これでも友人ですから」
吉野は目の前の寿司をつまみながら言った。
「学生時代の先輩後輩って奴で」
「どっちが先輩?」
「俺です」
……成程。
「村田はあの通り、ドンくさくて結構泣き虫で俺もよく苛つきましたけど、何やかんや言っても根はイイ奴でしたからね」
だから陽菜が付き合ってたのだろう。
……放っておけなかったのかも知れないが。
「だからナニゲに女が殆ど途切れないんですよ」
……。
「まさか泣き落とし、とか?」
「そうらしいです」
理解出来ない。
虚しくなって来たので、話題を変えてみた。
「通夜に来てるのって殆ど会社の人間?」
「さあ……聞いてみましょうか?」
吉野は即座に彼女にメールを打ってくれた。
天婦羅や寿司をつまみながらビールを飲んでいると、まもなく吉野の携帯にメールが入った。
「……殆ど会社関係の人みたいです」
「友達少なそうな気がするけど」
「少ないですね。高校の時の奴で未だに交流があったのって俺くらいじゃないですかね」
「ふうん」
大半の人間には泣き落としなんか効かない。
「村田は仕事出来んの?」
俺の言葉に吉野は笑った。
「んな訳ないじゃないですか。トロいんで、よく周りを苛つかせてたらしいですよ」
……愚問だった。
照れ隠しに周りを見回した。
参列者に特に変わった様子はない。
周りからすれば、会社関係でない俺や吉野の方が浮いてるのかも知れない。
変な視線は感じないが。
「しかし、何で……」
吉野は呟いた。
「何で自殺したんだか……」



「……接点があった、か」
浅倉は喫煙コーナーで独りぼんやりと煙を吐き出した。
半年前に死んだ米沢陽菜。
陽菜が死ぬ数日前まで交際していた村田正。
しかし、陽菜の子供の父親は村田ではない。
そのことに村田が逆上した形跡はなく、陽菜が死んだ日、彼は仕事で出張しており、陽菜を殺すことは不可能。
――大体。
あの時、岬で何も発見出来なかったのだ。
しかも。
米沢陽菜は男性関係が派手だった為、かなり調べたのに、子供の父親が誰なのかは未だに不明。
最終的には行きずりの相手だろう、ということにはなったが。
――何か。
何かが、ある。
浅倉は煙草の火を揉み消し、喫煙コーナーを出た。



携帯がメールの受信を伝えた。
――吉野?
俺は、メールを開けた。
『これは、村田からの最後のメールです。パソコンに入っていたので、気づくのが遅れました。一応、送ります』
そして、その村田からのメールは。




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