2


……じゃなきゃ、こんなことやってらんねーけど。
「そいつと連絡つく?」
「つきますよ」
大野はその場でそいつに電話してくれた。
連絡がとれたので、俺と会う手筈もすぐについた。
「陽菜、子供いたんすか……」
電話を切って、大野はボソッと呟いた。
「自殺したって聞いた時も信じらんなかったっすけど……」
そうだよな、と俺は頷いた。
「人って分かんないもんですよね……」



「……俺は振られたんです」
鳥海は言った。
大野の紹介で会った男は、如何にも真面目な会社員、といった感じの奴だった。
「亡くなる半年くらい前、陽菜にプロポーズしたんです」
そしたら、断られたのだと言う。
「何て言うか……別れたのってそれがきっかけ?」
俺が聞くと、鳥海は頷いた。
コイツと結婚したら幸せになれたんじゃないだろうか。
俺はそんなことを考えた。
暫く思い出なんかを話してから、陽菜の最後の男について聞いてみた。
「最後かどうかは……多分違うと思うんですけど……」
自分の後に付き合ってた奴を知ってるらしく、やはり連絡をとってくれた。



「続かなかったですね」
吉野は言った。
フリーターで仕事を掛け持ちしているが、女も掛け持ちだという。
器用な奴だ。
「陽菜の時は陽菜だけだったんですけどね」
美香あたりに言ったら、一発殴られるタイプだろう。
「逆に、1人だったから駄目だったとか?」
試しに聞いてみたら、そうかも知れないという返事が返って来た。
「女に言うんですよ、他にも付き合ってる奴いるって」
女はそれでも良い、と言うらしい。
羨ましい話だ。
俺には絶対に無理だ。
まず、こんなにモテない。
「とりあえず、子供は出来ないようには気をつけますよねー」
コイツの場合はそうだろう。
「来ない、とか言われたことねーの?」
「ないですね、今のところ」
何でこんな奴がモテるのか。
俺にはよく分からない。
「陽菜の最後の男ですか? 知ってますよ」
その言葉に俺は思わず身を乗り出した。
「知り合いですから」



見るからに気の弱そうな男。
俺を前にして、震えているようだった。
職業は会社員。
……コイツが陽菜を孕ませたのか?
俺は内心首をかしげた。
「陽菜ちゃんは、ぼ、僕を救ってくれたんです」
村田の声は震えていた。
……別に俺は脅したりしてねーし、そんなに怯えんなよ。
内心思ったが、黙っていた。
一応聞いてみた。
「陽菜の腹の子供の父親って、お前?」
「ち、違いますっ!」
避妊してたから違う、と村田は言った。
……じゃあ最後の男じゃねーじゃん。
それでも突っ込んでみた。
「ゴムは破れたりするから、万が一ってことは?」
「ち、違いますっ!」
村田は言った。
「陽菜ちゃんが言ったから間違いありません!」
「え?」
何だそれは!
「お腹に別の人の子供が出来たから別れてくれって言われたんですっ」
……泣いてるし。
泣きたくもなるだろーけど。
「それって浮気……?」
はい、と泣きながら彼は頷いた。
「まさかその相手って、知り合いだったりしねーよな?」
「……違います」
でも。
「相手は陽菜ちゃんの葬式の時にきっと来てるんじゃないかって、思って……」
村田は参列者をじっと観察していたらしい。
「僕、ずっと貴方じゃないかと思ってたんです」
何故なら。
「陽菜ちゃんの周りには沢山男性がいたけど、頻繁に名前が出て来るのが『ノブ君』だったから……」
で、『ノブ君』を探したら。
「大泣きしてて……」
うわあっ、やべえっ!
頭痛がしてきた。
「何か違うなって思って……」
「俺じゃないって?」
「はい……」
物凄く恥ずかしい。
「貴方だったら、きっと陽菜ちゃんを死なせたりしないって思いました」
ふと、聞いてみた。
「じゃあ、参列者の中にそれっぽい奴、いた?」
村田は首を振った。
分からなかった、と。
「ただ……」
「ただ?」
「別れ話の時、陽菜ちゃん、変でした」
村田は真っ赤な目で言った。
「僕、泣いてたんで、ちゃんと陽菜ちゃん見てなかったんですけど、何て言うか、物凄く沈んでて……」
……別れ話を陽気にする奴はあまりいねーと思うけど。
陽菜は、村田の前では母親だったんじゃないだろうか。
俺は溜息をついた。





――ところが。


この、2日後。

村田は死んだ。







――四野岬から飛び降りて。







[ 2/8 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -