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入所した当時から彼らを良く知る職員は言った。
「2人共、此処に来たのが同じような歳で……仲良しでした」
職員は懐かしそうに言った。
「ノブ君は小さい頃、引っ込み思案だった陽菜ちゃんの手を引いて歩いてましたね」
大きくなるにつれて、陽菜ちゃんの方が強くなっていきましたけど、と職員は笑った。
「彼らが此処に来た経緯は……、いやあの、宮下さんの失踪の手がかりにならないかと思いまして」
浅倉の言葉に、職員は頷いた。
「ノブ君は生後まもなく乳児院の前に捨てられていたそうです。それで2歳の時に乳児院から措置変更でこちらに」
「米沢さんも?」
「陽菜ちゃんは親を亡くして、親戚等もいなかったので……それで入所したんじゃないかと思います」
そうですか、と浅倉は言った。
「この施設を出てから彼らは一時期恋人関係になり、その後別れたようですが……」
「昔からそういう関係になってもおかしくない間柄ではありました。個人的には微笑ましく見ていましたし、此処を退所する時にちょっとノブ君が不安定になった時も、陽菜ちゃんが助けてくれて」
そして。
「陽菜ちゃんが悪い仲間と付き合うようになったのは、ノブ君と別れてからですから……きっと色々思うところがあったのだろうと思います」
そうですか、と浅倉は呟いた。
「宮下さんからその後連絡は」
「ありません。陽菜ちゃんの葬儀の際に会ったきりで」
職員は沈痛な面持ちになった。
「ノブ君、陽菜ちゃんの前で大泣きしてました。小さい頃の2人を良く知ってる施設長もノブ君見てたら貰い泣きしたって後で言ってましたし」
あ、そう言えば、と職員はぽんと手を叩いた。
「施設長に電話がかかって来たみたいです」
「いつですか?」
「確か……3日前だったかと……」
施設長に聞いてみましょうか、と職員が言ったので、浅倉はお願いしますと頭を下げた。
職員はすぐに上司を呼びに行き、まもなく施設長が職員に連れられてやって来た。
「宮下さんから最近電話があったとか」
「ええ……確か3日前くらいに」
「どんな電話でしたか?」
「陽菜ちゃんが昔お世話になった警察の方の連絡先を教えて欲しい、と」
「え?」
「陽菜ちゃんは……悪い仲間と付き合っていた頃、時折警察の方にお世話になっていたんです。その際に或る警察の方が陽菜ちゃんを叱って下さったお陰で、陽菜ちゃんは更生出来たんです」
施設長は一旦言葉を切り、少し間をおいて続けた。
「あの方は陽菜ちゃんのお通夜にまで来てくれたんです」
「その警官の名前は?」
「野口さんという方です。まだお若い方で。何年か前に異動されて、別の部署に行かれたとか」

――野口?

浅倉は嫌な予感に襲われた。

――まさか。



浅倉は施設を出て、即座に相棒の野口の携帯に電話を入れた。
――しかし。
『只今、電話に出ることが出来ません……』
――更に。
「駄目だ。電源を切られた」
上司が電話の向こうで苛々とした声を出した。
「確か有給とってましたよね?」
「ああ。まさか……な」
浅倉からの一報の後、携帯にかけ直して来た上司は言った。
「野口が以前、米沢陽菜に関わっていたという裏がとれた」
「そう、ですか……」
「しかも、男女の関係だった可能性がある」
浅倉は目を見開いた。
「彼らと顔見知りであることを奴は言わなかったな」
「課長、万が一……」
「とにかく野口を探せ」
浅倉の言葉を遮って、上司は言った。
「探すんだ」



浅倉は四野岬に向かった。
野口は、其処にいるような気がした。



空にはニヤニヤ笑う若い男の顔が浮かんでいた。



――満月の晩だった。






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