2

「須美ちゃん」
顔を上げると美弥が立っていた。
「何?」
「話があるんだけど」
学食でぼんやりしていたら、3限になっていたらしい。
周りには人がいなかった。
「あのね」
美弥はちょっとためらっていたが、顔を上げて話し始めた。
「私、4人兄弟の末っ子なんだけど、上から2番目の兄がね、須美ちゃんに良く似てるの。何て言うか――」
美弥は少し言いにくそうにしていた。
「兄はね、昔は姉だったの」
「――それは」
「勘違いだったらごめんね。でも、もし須美ちゃんもそうなら、無理して繕わなくても良いんじゃないかと思ったの」
「……何で、分かったの」
声が、震えた。
「昔の兄に似ていたから。兄はね、須美ちゃんみたいに背も高くないし、声も高くて、女の子にしか見えなかったけど、中身はずっと女の人じゃなかったの」
美弥は遠くを見るように話を続けた。
「努力、してた。須美ちゃんみたいに、男の人と付き合ってたし。でも、兄が本当に好きだったのは親友だったのよ。ずっと隠してたみたいだけど、私は知ってた。……何でかな」
美弥は不思議な人だ。
驚くほど他人の心を読み取る。
「でも、やっぱり無理だったの。だから女の人をやめて、男の人になったの。今はどこから見ても男の人にしか見えないし、彼女もいるよ」
「……そう、なんだ」
目から鱗とはこのことを言うのかも知れない。
何だ。こんなに近くに味方がいたのか。
「……なれるかな、男に」
「外見は今のままでも大丈夫な気がするけど。狩野君、初めて須美ちゃん見た時、女の子だと思わなかったらしいし」
「本当?」
美弥は笑って頷いた。


もう、装わなくていい。
繕わなくていい。
ここに1人、理解してくれる人がいるから。
佳乃や夏奈や狩野や、他の友人や家族にも伝えよう。
自分は男だと。
何人かには受け入れてもらえないかも知れない。
それでもきっと、受け入れてくれる人がいる。美弥のように。


そしていつか願いは叶える。
自分自身で。




(終わり)





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