1


昼休み。
野郎3人でつるんでいたら、狩野(かりの)が言った。
「そういえば、佐藤さん、男と別れたらしいよ」
……ええええっ?!
「チャンスだねえ、宮部(みやべ)」
鈴木が眼鏡の奥の目を光らせて、言った。
「佐藤さんは目下失恋中で弱ってる。そこにつけ入れば、もしかしたら……」
……いや、でも、それは卑怯じゃないかと!
「手段はこの際問わないんだよ!」
「こうでもしないと片思いのままで終わるだろ! お前の場合は!」
……それは、まあ。でもさあ〜。
「お前、今日は絶対に佐藤さんと2人きりになるシチュエーションつくれよ? 協力するから!」
……狩野っ、鈴木っ、ありがとうっ!
「あんなに健気に夏奈(かな)のことを思ってるんだから、これで報われなかったら駄目だよ」
中村がヒョイと顔を出す。
……いいよな〜お前ラブラブだし。
「今度は宮部の番だよ」
……そうかな。
「そうよ〜。宮部君、夏奈ちゃんはきっと宮部君の想いにこたえてくれると思うな〜」
ふわっとした笑顔で、立花さんがそう言ってくれる。
「応援してるからね、私」
……立花さん、ありがとう! 俺、夏奈ちゃんに会う前に立花さんと出会ってたら、きっと好きになってたと思う!
「夏奈ちゃん、宮部君のことが好きな気がする」
神谷(かみや)さんが少し首をかしげながら言った。
……そ、そうかな?
「じゃなかったら、何で宮部君にあんなに親切なのか分からないもん」
……神谷さんっ、ありがとう!
みんなに励まされて、俺はうっかり泣きそうになった。
「みんな、何してるの?」
……夏奈ちゃん!
「え? 宮部君がどうかしたの?」
……あのっ、か――佐藤さん!
「は、はい?」
……あの、その。
「宮部っ、頑張れっ!」
……お、俺と付き合って下さいっ!
「宮部っ、よく言った!」
「流石、宮部君!」
外野がそう囃し立て。
そして、夏奈ちゃんは。
「ありがとう、宮部君っ」
俺に抱きついた。
……嗚呼、生きててよかった!
神様、ありがとうっ!
――すると。
「じゃあ、夏奈、一緒に帰ろうか」
何故か狩野がそう言った。
「うん、雅明(まさあき)っ!」
夏奈ちゃんが俺から離れて、
「という訳だから、ごめんね、宮部君!」
……え、ええっ?!
待て狩野! お前には神谷さんがいるだろっ!
「佳乃(よしの)は本妻。夏奈は妾」
……結婚してないだろお前っ!
「そうなの〜。私、側室なの〜」
……それはにっこり笑って言うことじゃないだろ!
「いいの、私は二番でっ」
「じゃあ帰ろうか、夏奈。あ、佳乃、夏奈を送ったらすぐ戻るから」
「分かった」
……それでいいのか、神谷さんっ! 駄目だろ、ここは怒らなきゃ!
「だって雅明が言うから……」
「じゃあね〜宮部君!」
……嘘だああああっ!!
ま、待ってよ、夏奈ちゃん!!
待ってくれえええっ!!



ドシン!


「ってぇ……」
俊一(しゅんいち)はベッドから落ちて、目が覚めた。
「夢かよ……」
しかも、年が明けて最初の夢。
「不吉だ……」
恋愛を友人に妨害されるとは。
「狩野……テメーぜってー許せねえ!」

俊一の恋は今年も前途多難のようである。





(終わり)






[ 8/8 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -