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「みんな好きだよね、こういう本」
彼女は言った。
「周りが読むから自分も、と思ったけど、どうも駄目だった」
「そ、そう」
「それだったら、AVとか見た方がよっぽど……」
「え?!」
……見るのかアンタは。
「え? 普通に見るけど」
「……中村さん、本当に女?」
彼女は苦笑いをして、一応ね、と言った。
歩は溜息をついて、ゆっくりと立ち上がった。
いい加減、家に帰らないといけない。
つられて、彼女も立ち上がった。
店員にお礼を言って店を出ると、外はすっかり暗くなっていた。
「……送ってくよ。駅から近いんでしょ?」
「そんな、大丈夫だから」
「また倒れたらどうすんの」
その途端、歩はよろけて倒れそうになり、彼女に肩を抱き寄せられた。
「ほら、言わんこっちゃない」
「ご、ごめんなさい」
心臓の鼓動が速くなる。
……え?
何でどきどきしてるの、私。
相手は女なのにっ!
慌てて、彼女から身体を離して、歩はうつむいた。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫……」
少しも大丈夫なんかじゃないのだが。
「矢口さんて、意外と可愛いよね」
……息が止まるかと思った。
その後。
彼女の口から、彼女の心と身体の性別が一致していない、ということを聞かされるのだが。
それまで、歩は自分がレズビアンではないかと、延々と悩み続けたのだった。
(終わり)
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