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翌日。私は一限から授業に出ていた。
今日の一限は選択授業だ。美弥ちゃんと須美ちゃんは隣の教室で別の授業を受けているし、夏奈ちゃんはとっていないから必須科目の二限から来る。
先生の話に耳を傾けながら私はこまめにノートをとった。
チャイムが鳴った。
授業が終わり、次の教室に移動する。
…喉が渇いた。
私は次の教室に移動する途中で自販機でペットボトルのお茶を買うことにした。
自販機からお茶を取り出したところで、側の柱の陰で話している男子学生の声が聞こえてきた。
…お前はいいよなあ、いいノートが手に入るもんなあ。
…神谷さんに言えば貸しくれるだろ〜?
…いいなあ〜俺も神谷さんと仲良くなってノート借りてぇ〜。
笑い声。
馬鹿にしているかのような。
そうか。
彼が私に話しかけて来るのはノートの為か。
話の合う良い友人だと思っていた私は馬鹿だ。私は彼にとっては友人ではなく、単なるノートなのだ。
私は唇を噛み締め、静かにその場を離れ、教室へと向かった。


教室に入ると、私は真っ直ぐ席についた。
この授業は席順が学籍番号順と決まっている。友人とは離れているし、私の隣は狩野君。
最悪だ。
授業の準備をして、私はペットボトルのお茶をあおった。
何でよりにもよって、あんな話を聞いた後の授業がこの席順なんだ。
矢口さん達の声が入口から聞こえた。きっとまた狩野君と喋っているに違いない。そのまま矢口さんが狩野君を連れて行ってしまえば良いのに。
ペットボトルを鞄にしまって、先週のノートを見直す。
「おはよう」
狩野君がやって来た。
「おはよう」
腹の中に怒りを納めて、私もいつものように返した。返した…けれど、目は見られなかった。
「先週のノート、見せてくれない?」
「…いいよ」
丁度手に持っていたので、断りようがない。
そのまま狩野君にルーズリーフを渡し、私は新しいルーズリーフを取り出した。
自分のお人好し加減に涙が出そうだった。


昼休みを友人三人と過ごし、そのまま一緒に三限の授業に出た。
終了のチャイムが鳴ると、私は友人三人と一緒に駅まで歩き、其処で別れて地元に帰るべく電車に乗った。
いつもの駅で降りて、地元の図書館に入った。
『鬼平犯科帳』の一巻から五巻を返却し、さて今日は六巻から先を借りよう、と思ったのだが。
…ない。
六巻から十巻まで見事に抜けている。返って来たばかりの本のコーナーも探したが、ない。
人気のシリーズだ。仕方ない。
十一巻から先を借りようとして、本棚を見て気がついた。
『藤枝梅安』がある。
こちらなら全冊借りられる。
私は予定を変更して、『藤枝梅安』シリーズを抱えて貸出カウンターへ向かった。
つつがなく手続きが終わると、雑誌のコーナーに行き、ファッション雑誌を手にとった。近くの椅子に座ってパラパラめくる。
綺麗で可愛いモデル達が魅力的な服や鞄を持って生き生きと動いている世界。
憧れるけれど、私には無縁な世界だ。
何やら虚しくなって、パタン、と雑誌を閉じた。


「神谷さん」
聞こえない振りをしようと思った。
しかし、目の前にいたのではそれも叶わない。
「…あれ?」
そう言うのが精一杯だ。
何でこちらの本棚に移動したんだろう。自分のフットワークの軽さを呪った。
狩野君の手元を見た。
――『鬼平』の一巻から十巻。
「狩野君、『鬼平』読むんだ?」
「うん。本屋で立ち読みしたら面白かったから、ちゃんと読もうと思って」
「凄いね。十冊も借りるの?」
「俺、本は一気に読むからさ。返却コーナーに丁度十巻まであったから、すぐ借りた」
「そう、なんだ」
一巻から五巻までは私が返却したものだろう。六巻以降は私が雑誌を読んでいる間に誰かが返しに来たに違いない。
何ですぐに諦めたのだろう。あのまま粘って返却コーナーに張りついていれば、六巻以降が借りられたものを。
「神谷さん、マック行かない? さっきノート借りたから奢るよ」
「いいよ、ノートのことは。…ちょっと用があるから」
じゃあね、と言い置いて、私は図書館を出た。
腹わたが煮えくりかえっていた。




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