5

私を玩具と勘違いしてる気もするけど。
でも。
そう言われてみると、そうかも知れない。
大事にしてくれているのかも知れない。
……どうなんだろう。
「今の私は狩野君よりも好きなひとがいるから、もう未練、ないから」
矢口さんはそう言って微笑んだ。
「それって、須美ちゃん……?」
恐る恐る尋ねると、矢口さんは頷いた。
「まだ、須美には内緒」
小さな声で言う。
私が目を見開くと、矢口さんは照れたように笑った。
「本当は心が男だって聞く前から好きだったの。最初は自分が変になったんじゃないかと思ったんだけど、もうどうでも良くなった」
矢口さんは空を見上げた。
「男でも女でもいいやって。須美ならいいって思ったから」
「そう、なんだ」
……何だ、この2人、両想いじゃないの。
いいなあ、羨ましい。
「近いうちに告るついでに襲ってやろうかと思って」
矢口さんは不敵に微笑んだ。
強いなあ、と思った。


駅で須美ちゃんや矢口さんと別れて、私はまた狩野君と2人になった。
「何か矢口と話してなかった?」
私は頷いた。
「うん。色々」
「色々って何」
「……矢口さんがね、ごめんなさいって」
「……そっか」
くしゃっと頭を撫でられた。
暖かくて。
気持ち良くて。
何だか、嬉しい。
「……有難う」
「ん?」
「矢口さんが言ってた。『あの時の狩野君怖かった』って」
「何だ、そんなことまで喋ったの? あいつ」
――苦笑い。
佳乃には内緒にしておこうと思ったんだけどな〜、などと狩野君は言葉を続ける。
そんな彼を見ていたら、何だか泣きたくなった。
悲しい訳じゃないのに。
この気持ちは、何だろう。
耐えきれなくて、思わず狩野君の腕にすがりついた。
彼の足がとまる。

「……有難う、雅明」

私の頭の上で、狩野君が息をのんだのが分かった。
「……有難う」
掠れた声で尚も言うと、彼は身体の向きを変え、空いている手でまたくしゃっと頭を撫でた。
額に軽く当てられた唇が離れ、私は目の前にいるひとの顔を見上げた。
――優しい、笑顔。
ぼんやりと眺めていたら、私の涙を指で拭いながら彼が囁いた。
「帰ろう、佳乃」
私はそっと腕を離した。
そして。
どちらともなく指を絡めて手を繋ぎ。
身体を寄せて、またゆっくりと歩き始めた。
……この手を離したくない。
そう思ったのは初めてだった。




(終わり)






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