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「あ! もしかして須美ちゃん、矢口さんてタイプ?」
夏奈ちゃんが言うと、照れたように笑った。
……図星だな、と思った。


放課後。
皆と別れてから、私は図書館で調べものをしていた。
狩野君は相変わらず隣に座っている。
「――中村の話、佳乃はどう思った?」
狩野君の言葉に私は顔を上げた。
「須美ちゃんが男子なのは別に意外じゃなかったけど」
「そうじゃなくて、矢口の件」
「ああ……」
私はシャーペンをノートの上に置いた。
「須美ちゃんが、謝りに来るって言うなら、きっとそうかなって」
「……人がいいね、佳乃」
「そうかな」
狩野君は笑った。
「矢口さんは私、正直苦手だけど」
隣から手が伸びて、頭を撫でてくれる。
「俺もあんまり好きじゃないけど、矢口。でも中村の前では違うのかもね」
女って、男の前だと変わるだろ、と続ける。
確かに、女の子同士でいる時と男の子を前にした時とでは豹変する人もいるけど。
「私も、違うのかな」
そんなの、私は嫌だ。
なるべく同じでありたい。
「佳乃はちょっと違うかな」
「え?!」
私も媚を売っているのだろうか。
「女子の中にいる時の方がリラックスしてるよ。俺と宮部と鈴木しかいない時ってちょっと堅いもん」
頭にあった手が頬に移動する。
……暖かい手。
「話しかけ辛くなるんだよ、鎧をつけるから」
俺はその方が都合がいいけど、と笑う。
「変な虫がつくのは嫌だからね」
「――だからって図書館でイチャイチャするのはどうかと思うよ」
はっとして振り返ると、其処には須美ちゃんがいて。
そして、隣には。
――矢口さん。
「佳乃、それ、あとどのくらいかかる?」
「あ、調べものはもう殆ど終わったから……」
「ちょっとお茶飲みに行かない? 狩野も一緒に」
「それってダブルデート?」
狩野君が、頬杖をつきながら2人を見上げてニヤッと笑った。
「そうそう」
「ふうん」
そして私の方を見やる。
「どうする? 佳乃」
「……行く」
私は勇気を振り絞って立ち上がった。
負けたくない、と思った。


珍しく学校の近くのマックに入った。
地元のマックにはよく狩野君と行くけれど、此処は久し振りだった。
「狩野、図書館で手を出すんじゃないよ。見つかったら出入り禁止になるよ? そしたら佳乃が可哀想じゃん」
「そんなヘマを俺がする訳ないだろ」
「どうだか。……佳乃も気をつけなきゃ駄目だよ」
「う、うん」
分かっているんだけど……。
「残念でしたっ。佳乃は動けなくなるんですっ」
「あっそ。じゃあ尚更狩野が気をつけるべきなんじゃないの」
「お前は小姑かっ」
須美ちゃんと狩野君が2人で話してるといつもこうなる。
何というか、遠慮がないというか。
「……つーか矢口、取り巻きはどうしたんだよ」
「帰ったけど」
「あのね〜矢口だっていつも小出とかと一緒な訳じゃないんだよ?」
須美ちゃんは呆れたが、狩野君はしれっとして言葉を続けた。
「俺はいずれ小出や桜井なんかに中村が睨まれる気がしてならないんだが」
「それは……」
「もういいんだよ。とっくに睨まれてるから」
須美ちゃんはケラケラと笑う。
私は目を見開いた。
……睨まれてる、って大丈夫なんだろうか。
「ごめん、美香とかにはちゃんと言っとくから……」
「いいよ、別に。慣れればなんてことないし」
……意外だ。
あの矢口さんが小さくなってる。
これってどうして?
須美ちゃんがいるから?
狩野君がいるから?
それとも。
少しばかり因縁のある私がいるから?
「……他人の前でイチャつくなよ」
狩野君がボソッと言うと、須美ちゃんがにっこり笑った。
「その言葉、そっくり狩野に返すから」
「はあ?」
狩野君は顔をしかめた。
……うわあ、機嫌悪い。
私が内心溜息をついていると、須美ちゃんが言った。
「佳乃、たまには狩野を張り倒してもいいと思うよ」
「……もう何回か殴られてるよ」
私が口を開く前に隣が呟いた。
……自業自得だから、それは。


狩野君と須美ちゃんがマックでの会話そのままに、前を歩いている。
そして、私と矢口さんが並んで後ろを歩く。
――無言。
気まずい。
当たり前だけど。
「……神谷(かみや)さん」
私はびっくりして振り向いた。
「……ごめんなさい」
小さな声。
でも、分かる。
「狩野君が私の方を向いてくれなくて、悔しかったの」
「……」
「後で狩野君に脅された。『これ以上何かしたら、容赦しない』って」
……そんなやりとりがあったのか。
私の知らないところで、狩野君が動いてくれたんだ。
「怖かった、あの時の狩野君。殺されるかと思ったし」
だから、あれからぴったり嫌がらせがなくなったんだ。
「大切にされているのね、神谷さん」
「……そう、かな」
私は呟いた。



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