3

気になって仕方ないのは私だけではなかったらしい。
帰り道、狩野君が呟いた。
「中村捕まえて聞かないいとなあ」
「雅明なら矢口さんが事情を話してくれるんじゃないの」
私が言った言葉に狩野君は首を振った。
「取り巻きに止められるのがオチだよ」
……そうかも知れない。
「でもあの矢口が取り巻きと別行動って珍しいよなあ」
確かに。
「何か話も盛り上がってたみたいだしね」
私も昼休みの光景を思い浮かべながら言った。
「見てるとさ〜まるで付き合ってるみたいな……」
そんな訳はないだろうけど、と狩野君は続けた。
「中村、バイじゃないよなあ」
「バイ……って」
「男も女も愛せるってこと」
「……」
彼氏がいたのは聞いたことがあるけど。
確か、別れた筈だ。
それに、須美ちゃんは結構男性経験が豊富だと美弥ちゃんが言っていた気がする。
「女と付き合ってるのは俺も聞いたことがないしなあ」
逆にそっちの方が違和感ないけど、と狩野君は言った。
「そうだね」
私も頷いた。
何故なら。
須美ちゃんが男の子と歩いていても、彼氏と歩いてるというより友達と歩いてるように見えるからだ。
「俺、中村のこと最初は男だと思ってたんだよ」
女子トイレ行くの見てびっくりしたもん、と狩野君は言い、私はくすくす笑った。
「私も最初知らなくてびっくりした」
……そう。
そんな時でも、何故か美弥ちゃんだけはすぐに女の子だと見抜いたのだ。
『中村君、じゃないわよ。中村さん、よ』
だからだろうか。
誰よりも早く、美弥ちゃんは『中村さん』ではなく『須美ちゃん』と呼ぶようになったのは。
……美弥ちゃんには話せても、私や夏奈ちゃんには言えないのかなあ。
何だか寂しい。
くしゃっと頭を撫でられた。
「明日にでも中村に聞けばいいじゃん」
「……うん」
慰めてくれたような気がした。


「ああ、友達だよ」
――次の日の朝。
夏奈ちゃんに詰め寄られた須美ちゃんはそう言った。
「だって、佳乃ちゃんがあの人にされた仕打ちを覚えてるでしょ?!」
夏奈ちゃんが噛みついている。
ああ、あれね、と須美ちゃんは笑い、
「そのうち、矢口本人が佳乃に謝りに来るんじゃないかな」
などと言う。
「え?」
夏奈ちゃんは思わず聞き返し、私は目を丸くした。
「話せば分かるよ、あの子。もう狩野には未練ないみたいだしね」
須美ちゃんは笑って言った。
「だから、もう少し謝るの待ってくれない? 佳乃」
「う、うん……」
ほらね〜、と側で美弥ちゃんが笑っている。
「だから言ったでしょ、須美ちゃんは大丈夫だって」
私は夏奈ちゃんと顔を見合わせた。
須美ちゃんが其処まで言うのは信じてもいいような気がした。
「何か中村と矢口さ〜、付き合ってるっぽくない?」
「雅明っ」
私が狩野君をたしなめると、須美ちゃんは言った。
「そう見える?」
「中村が男に見えるからさ」
「じゃあ、狩野と並ぶと野郎同士つるんでるように見えるかな」
「佳乃は嫉妬しないよ、多分」
気が抜けたからだろう。
其処にいた皆が笑った。
「確かに彼氏と並んで歩いていてもデキてるとは見られなかったなあ」
須美ちゃんが呟いた。
「嫌じゃない? それって」
夏奈ちゃんが聞くと、須美ちゃんは言った。
「しょうがないよ、こればっかりは。女の格好苦手だもん」
「そっか〜」
これは須美ちゃんだから仕方ないと思う。
背が高くて、ハンサムで、声もハスキーで。
とてもじゃないが女子には見えない。
周りの誰もが一致する意見だ。
「……多分、中身が男だから」
「身体は女だってこの前言ってたじゃん」
「うーん、確かに身体はそうなんだけど」
狩野君の言葉に須美ちゃんは頭をかいた。
「……昔から自分が女だとは思えなくってさ〜。女よりも男の考え方の方が共感出来るし」
「そりゃあ須美ちゃんだしね〜」
夏奈ちゃんと私は声を揃えて言った。
「佳乃ちゃん、須美ちゃんて女だと思う?」
「……女じゃない気がする。夏奈ちゃんは?」
「私、今だから言うけど、4月に初めて会った時、カッコイイなあって思ったもん。みっちゃんいなかったら、レズだろうが何だろうが須美ちゃんに貼りついていたと思うよ」
「うわ〜告白だ!」
私と夏奈ちゃんが盛り上がるのを横目に、狩野君が言った。
「それって単に女が好きとかじゃなくて、心と身体の性別が一致してないってこと?」
須美ちゃんは頷いた。
「元々少し違和感あったけど、中学ぐらいから自分の身体が本当に嫌だったよ。小さい頃から好きになる人は皆女の子だし」
「ふうん。でもよく男と付き合えてたね」
「寝たら女になれるかと思ったんだよ。違ったけど」
「バイにはなりそこねたんだ」
「そう。突っ込む側なのはよく分かった」
「それは男じゃ駄目だよな」
「Mな男なら大丈夫かも知れないけど」
……何で?
「お前、もう男とは無理だろ。自覚してるんだから」
「そうなんだよね」



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