2

まもなく、付き合っていた女と別れることとなり、雅明は空いた時間、地元の図書館にせっせと通うようになった。
電車でも図書館でも彼女の姿を探した。
休日でも塾の行き帰りに必ず図書館をうろついた。
彼女は大概、図書館にいた。
閲覧室で辞書を広げていることもあったし、本棚の前で本を読んでいることもあった。
貸出カードを後ろから覗き込み、名前が神谷佳乃ということも知った。
こんなに追いかけているのに、声もかけずにいる自分がおかしかった。
……らしくない。
本当にそう思った。


そして、春。
隣の席に座った人間の顔を見て、頭は真っ白になった。
彼女が、其処にいた。
見えない力が働いたとしか思えなかった。


「……佳乃」
「何?」
私はレポートを書きながら言った。
相変わらず隣からは視線を感じる。
「佳乃」
「だから何?」
私は狩野君に向き直った。
「やっぱり今日、変だよ」
「そう?」
そっと抱き寄せられる。
「……此処は図書館だけど」
「誰もいないよ」
「見つかって出入り禁止になりたくないっ」
「じゃあ学食行こうか」
「もっと嫌」
あそこは休みであっても人がいる!
「じゃあ諦めれば?」
……何だそれは!
後頭部に手がかかる直前、私はするりと狩野君の腕から抜けた。
「諦めませんっ」
真っ赤になって言う。
すると。
次の瞬間、強く腕を引かれて、狩野君の方に倒れ込んだところを、素早く抱きしめられた。
「俺も諦め悪いんだよ」
耳元で囁いて、指でそっと唇をなぞられる。
「佳乃が可愛過ぎるのがいけないんだよ」
「だから、私は玩具でもぬいぐるみでもない……っ」
やばい。
苦しいやつだ。
気が遠くなる……。
「……佳乃を脱力させるのはこれが一番手っ取り早いんだよ」
……倒れそうになるからやめて下さい。
「玩具でもぬいぐるみでもないよ。佳乃は佳乃」
嘘をつけ。
「あ。信じてないし」
私は力の入らぬ身体に無理矢理力を入れて、狩野君から離れた。
そのまま、机に突っ伏す。
私の様子を見て、狩野君はまた笑う。
「無理しないでさ〜、俺に寄りかかってればいいのにな〜」
そんな余裕はありません。
「やっぱり佳乃は可愛いね……昔から」
「え?」
「可愛いって言ったんだよ」
頭を撫でる手はいつだって優しい。
色々な疲れも手伝って、眠くなってくる。
「……佳乃?」
呼んでる声が聞こえたけれど。
私は意識を手放した。
だから、この後、狩野君が言った言葉など知るよしもなかった。
「――逃げるなよ、佳乃」
彼は不敵な笑みを浮かべていた。



(終わり)







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