1


手を握る。
指を絡めてほどけぬように。
でなければ、何処かに行ってしまう。
――そんな、気がして。
この人の目の中に自分しか映らないようにしたい。
いつも思う。
この人はいつも何を見ているのだろう。
何を思っているのだろう。
知りたい。
この人の全てを知りたい。

想いは伝わっているのだろうか。



「佳乃(よしの)、其処、違う」
……ううっ、またか。
夏休みではあったが、このところ私は学校の図書館に通って課題やらレポートやらをやっつけていた。
夏休みの図書館通いは流石に独りだろう、とたかをくくっていたのだが。
――何でこいつもいるんだ?
てっきりバイトかと思ったのに。
狩野雅明(かりの・まさあき)は何故か私と一緒に登校し、一緒に図書館に行き、一緒に帰る、という日々を送っているのである。
そして、図書館では自分の課題はほとんどやらず、ひたすら私をいじったり、茶々を入れたりして過ごしているのだ。
……これじゃあ、授業のある時と同じじゃないの。
そして、更に。
「――そうそう。流石、佳乃。飲み込み早いよね〜」
……何故そこで抱きつくの?!
いやあの、赤くなってる私も私だけど。
「でもハグは慣れないんだよね〜」
「うるさいっ!」
……どうも最近、べたべた触るのである。
一緒に海に行ってからそれが顕著だ。
授業があれば、友人の誰かが止めるだろうが、休みの間に図書館に来る学生はたかが知れてる。
止める人がいなければ、ますますエスカレートする訳だ。
私が振り払っても全然めげないし。
それどころか。
「……ちょっと、離してっ」
「嫌だ」
「暑苦しいからっ」
「冷房でひんやり冷えてるよ」
「私は課題をやるのっ。邪魔ですっ」
「冷え過ぎると風邪ひくよ」
この調子で、一旦抱きつくと暫く離してくれない。
無理矢理ほどこうとすると、腕の力が強くなって、私の力では到底抜け出すのは不可能になる。
「佳乃はいい匂いがする……」
はいはい。
それはいいから早く解放して下さい。
此処は図書館です。
図書館は本を読んだり勉強する所であってアナタの遊び場ではないし、私もアナタの玩具ではありません。
「……あ、怒った」
「……」
当たり前だっ!
私を何だと思ってるんだ!
私はぬいぐるみじゃないっ!
「離して」
「ええ〜っ」
「離して」
「……嫌だ」
アンタは子供か。
それじゃあスーパーでお菓子を持ったまま離さないで駄々をこねるのと同じですっ!
「……あのさ〜佳乃〜」
「何」
「それ、あと1つやったらどっか行こうよ〜」
またか。
「行きません」
「ええっ、行こうよ〜。それはまた明日やればいいじゃんよ〜」
「行かない」
「行こうよ〜」
……夏休みが嫌だと言う、子供を持つお父さんお母さんの気持ちが分かるような気がする。
私は溜息をついた。
時計を見る。
もう、お昼か。
学食はやってないけど、建物自体は開放していて、入れる筈だ。
お腹も空いたし、持って来たおにぎりでも食べよう。
「……学食に行く」
「分かった」
にんまりと笑って、耳元で囁く。
やっと、身体が離れる。
……肩、凝った。
私は机の上のものを片付け始めた。


夕方。
お使いを頼まれて、私は自転車でまた駅前に出て来た。
浴衣姿がちらほら。
何故だろう、と思っていたら、どうやら何処かで花火大会があるらしい。
浴衣姿は駅へと吸い込まれて行く。
肉屋で豚コマを買い、八百屋でトマトとピーマンを買った私は、駅とは逆の方向へと自転車を押して歩道を歩いた。
ふと、何かを感じて車道の向こう側を見た。
感じのいい男女が駅に向かって歩いている。
女の子は綺麗な白地に花柄の浴衣を着て、髪はアップにして、髪飾りをつけている。
誰が見ても美人と言うだろう。
そして、その隣には。
――隣には。
さっきまで私にまとわりついていた奴が寄り添って歩いていた。
……花火大会、行くんだ。
ふうん。
あっそうですか。
彼女と2人で。
何だ、ちゃんと本命はいるんじゃないの。
やっぱり私は暇つぶしの相手か。
そうよね、狩野君みたいな男は女の子の方が放っておかないよね。
付き合ってる女の子が複数いたっておかしくないし。
自転車を押しながら、私はそんなことを考えた。
ポタポタと何かが腕に落ちた。
私は自転車を漕ぐ気力も失せ、家まで押して帰った。




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