4

夏奈ちゃんはもしかしたら、彼氏とデートかも知れない。海に行くとか言ってたし。
デートか……。
いいなあ。
私なんか今日は狩野君に付き合わされて、変な写真まで撮られて。
いやあの、私も一応海には行ったけど。
海はとっても楽しかったけど。
連れて行ってもらって良かったなあとは思……。
「あれ?」
夏奈ちゃん、何て言ってたっけ。
『今年も海に行くんだ〜。私もみっちゃんも海が好きだから、毎年行くの〜。駅で待ち合わせて、電車に乗って〜』
駅で待ち合わせて。
電車に乗って。
海。
……。
「これって、まさか」
「……まさか、何?」
隣のヤツが目を覚ましたらしい。
相変わらず、寄りかかったままだけど。
しかし、私はそれどころではなかった。
「……何でもない。独り言」
「佳乃、また顔が信号機になってない?」
「き、気のせいじゃない?」
そうかなあ、と狩野君が言った。
「まさかさあ、今頃、これがデートだって気がついた訳じゃないよね?」
ぎくっ。
「そんな、まさかー」
「今頃気づいたんだ……」
「そんなことないっ」
「嘘つけ。アナタね〜、いい加減にしなさいよ。これだから油断ならないんだよ〜」
狩野君は身を起こして私の方に身体を向けた。
「……すみません」
そこはかとなく威圧感を感じて、私は小さくなって謝った。
「全くもう」
私の肩に、頭を置いて。
「頼むから他の男と二人でどっか行くなよ」
「行く訳ないでしょ。か――雅明としか行かないよ」
「他の奴と歩くのも駄目だよ」
「歩いたことなんかないよ。私は雅明みたいにモテる訳じゃないもん」
狩野君は顔を上げた。
「……妬いてんの? もしかして」
「妬いてないっ」
「妬いてんだろ〜」
「違いますっ」
「その顔じゃ説得力ないよ」
にやりと笑う。
……悔しいっ。
何で私の顔はすぐ赤くなるのっ!
「俺、もう少し寝るから」
狩野君は、着いたら起こして、と言うなり私の膝に頭をのせた。
「ちょっ……!」
重いんですけど。
でも。
まあ、いいか。
私はまた窓に目を向けた。
景色はだんだん見慣れたものになって行く。
……着いたらお昼おごってよ。
膝貸してるんだから。
お腹の中で、悪態をつく。
それでも。
何だかおかしくなって、少し笑った。
こんな日も、たまにはいいかも知れない。
私は右手を狩野君の頭に置いて、ぼんやりとそんなことを思った。


この後。
目が覚めた狩野君は、また私をからかって遊ぶのだが。
学習能力のない私はこの時そこまで思い至らず、束の間の平和を満喫していたのだった。



(終わり)





[ 14/28 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -