2

「私の存在よりも雅明の方が強いから。私の言葉は吹き飛んでしまう」
悔しいけど。
「それに、私は元々単独行動ばかりしていたから、誰かと一緒にずっといることに慣れてない。他人に合わせることは何とか出来ても、自分に合わせろとは言えない」
「…それ言って」
「だって」
「思いついたら口に出して」
狩野君は言葉を続けた。
「佳乃は顔に出るから分かり易いけど、俺だって分からないこともある。だから言って。――一人で図書館行きたい、とか」
「?!」
何で分かったの?!
「今、何思った?」
「…何で分かったのかと」
「分かるよ。俺、神谷佳乃の研究、ずっとしてるもん。立花さん達にも褒められたよ。よく分かってるって」
絶句。
「それに、佳乃の存在が弱いっていうのもあり得ないから。少なくとも俺にとっては大きいから」
本当、だろうか。
信じがたいけれど。
「佳乃の言うことは俺、聞くよ」
…それは嘘っぽい。
「今、何考えた?」
「…それは嘘、かなあって」
「ちゃんと聞いてるじゃない」
「…都合のいいことだけでしょう」
私の呟きに、狩野君はにっこり笑った。
「それはそうだよ。一人で図書館なんか行かせたくないもん」
「行っちゃいけないの?!」
「可愛い佳乃に変な虫がつくといけないでしょう」
「つく訳ないでしょ! 大体図書館行ったら本しか見てないよ!」
「アナタはそうかも知れないけどね。他の奴はどうだか分からないでしょう」
「そんな物好きいる訳が」
ない、と言いかけて、気がついた。
ここに一人、いた。
狩野君は恐ろしい程の笑顔で言った。
「物好きは俺以外にもいる可能性はあるからね」
…その笑顔が怖い。
そこはかとなく怖い。
とんでもない奴とお近づきになってしまったのかも知れない。
何やら背筋が寒くなった。


「おはよ〜佳乃ちゃん」
翌朝。狩野君との登校途中、駅を出たところで美弥ちゃんと会った。
「おはよ――」
「おはよう、立花さん」
…だから何故割り込む。
「今日、寒くない?」
「寒いよね〜。でも俺、佳乃いるから平気」
「やだわ〜朝からのろけてるし」
「当たり前でしょ。ラブラブだもん」
「流石、狩野君」
私は溜息をついた。
「…雅明。私、先に学校行ってる」
私は速歩きで二人から離れた。
「佳乃?」
「…頭痛がする」
「佳乃っ!」
美弥ちゃんがケラケラと笑うのが聞こえた。
「狩野君、佳乃ちゃんに何か言ったの?」
「ちょっと教育的指導をしただけだよ」
美弥ちゃんが笑うのがまた聞こえた。
「待ってよ〜佳乃っ」
狩野君が後ろから私の腕を掴んだ。
私は反射的に腕を振りほどき、ずんずん学校に向かって歩き続けた。
「悪かった、悪かったってば」
「…何もああいうことを言うことはないでしょっ」
「だって言いたくなったんだもん」
「私は言われなくないっ」
「のろけるぐらいいいだろっ」
「全く、自分に都合のいいことしか聞かないんだからっ」
「そんなの当たり前だろ?」
「どこが当たり前なのよっ」


この日、私は友人みんなに「朝から夫婦喧嘩しないでよね〜」と、からかわれ続けたのは言うまでもない。



(終わり)






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