いつもの、朝。
携帯のアラームが鳴った。
私は布団から腕だけ出して、アラームを止めた。
これであと5分は寝られる。
そう思った瞬間に、今度はCDコンポがけたたましくCDの再生を始めた。
寒いのを堪え、真っ暗な部屋の中で輝くコンポ目がけて這って行き、電源を切った。
…起きてしまった。
仕方がないので、部屋の電気をつけて、急いで着替える。
コートまで羽織って支度を整え、携帯のアラームを完全に切り、テレビをつけてから、台所に移動して灯りをつけて、やかんと鍋を火にかけた。更に冷蔵庫から昨日の残りの漬物を取り出して卓袱台の上に置く。
炊飯器は既に御飯が炊き上がって保温になっている。ボールに少し移して、ついでに茶碗にもよそって卓袱台の上に置く。
急須に煮立ち始めたやかんのお湯を少し注いで回して流しに捨てて、茶葉を入れる。
鍋の中の昨夜の味噌汁も温まったので火を止めて、お椀に入れて卓袱台へ。
ぐらぐら煮立ったお湯を急須に注いでマグカップに入れて、カップと箸を卓袱台に運ぶ。
再び冷蔵庫を開けて梅干しを取り出し、棚から海苔を出す。ボールに分けた御飯でおにぎりを握り、皿にのせて冷ます。
卓袱台の前に移動して、テレビの時計の表示を気にしながら御飯を食べる。
急いで食べ終えて、食器を流しに持って行き、流水とタワシで洗い、ガスの元栓を閉める。
食器を洗うと今度はおにぎりをアルミホイルに包んで鞄に放り込んだ。
テレビを見た。
まだ少し時間がある。
やかんに余っているお湯をまた急須に入れて、マグカップに再びお茶を注ぎ、卓袱台に移動した。
ふと、卓袱台の上のまだ未開封の金平糖が目に入った。
友人の京都土産。
でも。
金平糖は嫌いだ。
あの子を思い出すから。
本棚に並んだ、捨てられない文庫本。
シャーロック・ホームズも苦手だ。
あの子を思い出すから。
頭をズキズキさせながら、マグカップのお茶を飲み込む。
テレビに映る時計表示を見た。
もう、行かないと。
立ち上がって遮光カーテンを開けたが、外はまだ真っ暗で、月まで見える。
マフラーを巻いて手袋をはめ、鞄を持って玄関に行きかけ、振り返る。
「行って来ます」
写真のあの子は笑顔のままだ。
いつまでも、笑顔のままだ。
振り切るように灯りを消し、玄関に向かい靴を履く。
あと5分でバスが来る。
そして私はドアを開けた。
(終わり)
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