茅乃さんとお月様
草木も眠る丑三刻。
茅乃さんは今日も眠れずに、窓から真っ暗な外を眺めています。
今日は真ん丸お月様。
茅乃さんはお月様が大好きです。特に真ん丸なお月様が一番好きです。
だからにっこり笑ってオムレツ色のお月様を見つめました。
すると、真ん丸お月様の方も茅乃さんに気づいてにっこり笑ってくれました。
茅乃さんは嬉しくて、お月様に向かって手を振りました。
すると、お月様が茅乃さんに言いました。
「茅乃さん、もう寝なくちゃ駄目だよ」
「どうして?」
茅乃さんは首を傾げて言いました。
「だって、茅乃さん、朝早くからお仕事でしょ? 僕知ってるよ。此処のお屋敷で朝から夜まで働いているんだよね」
「うん」
茅乃さんはお屋敷に仕えるメイドさんです。
「でも大丈夫よ。だってお昼寝出来るもの」
茅乃さんが言うと、お月様はもじもじして言いました。
「だって、僕、これからダイエットの為に走らなきゃいけないから…人前で走るの恥ずかしいんだ」
それを聞いて茅乃さんは不思議に思いました。
「どうしてお月様がダイエットしなくちゃいけないの?」
「そういう決まりなんだ。今日までは太らなくちゃいけなかったから、兎さんがついてくれたお餅を沢山食べてたけど、明日からは痩せなくちゃいけないんだ。だから今日から走るんだ」
「ふうん。お月様も大変なんだね。でも私、お月様が走るところを見てみたいな」
「恥ずかしいよ…」
「誰にも言わないから、見てていい?」
お月様は茅乃さんがあんまり頼むので、困って言いました。
「誰にも言わないなら、いいよ」
茅乃さんは大喜びです。
お月様の方は、ダイエットの為に兎さんが作ってくれた鉢巻きを締めて、準備体操を始めました。
体をねじったり、くるくる回ったり。
それからいよいよ走り始めました。
お空を上にびゅんびゅん走り。
地面に落ちないように下にゆっくり走り。
右に走って左に走って。
お空をぐるっと一周して。
一生懸命です。
「お月様、頑張って!」
茅乃さんも応援します。
頑張れ、頑張れ。
走れ、走れ。
お月様は走り続けました。
そのうち。
東の空が明るくなってきました。
お月様は走るのをやめました。
「太陽さんが来る。僕、そろそろ黄泉の国に行かなきゃ」
「どうして?」
茅乃さんは尋ねました。
「太陽さんと交代でこちらの世界と黄泉の国を行ったり来たりするんだ」
茅乃さんはびっくりしました。
「黄泉の国でも走るの?」
「うん。みんなが眠ったらね」
「ふうん」
茅乃さんは思いました。お月様ってやっぱり大変なんだわ、と。
「じゃあね。茅乃さん」
「うん。また明日」
茅乃さんは沈んでいくお月様に向かって手を振りました。
そして、立ち上がって伸びをしました。
茅乃さんはこれからお仕事です。
今日はお昼寝がいつもより長くなりそうです。
(終わり)
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