駒と猫




 染井吉野の蕾もまだ膨らまぬ、或る日の早朝。
 三毛猫のぬいぐるみが餌をくれとばかりにみーみー鳴いているのを無視して玄関を掃いていると、ふと視線を感じた。
 門の外。
 背の高い赤毛の男性の姿に私は目を疑った。
 カール・フォン・ミルヒアイス。
 混沌のお方の側近中の側近、霧のミルヒアイスと呼ばれている人だ。
 反射的に、おはようございますと挨拶をすると、御無沙汰でした、という言葉が返って来た。
「あの……何か……?」
 混沌のお方の関係者で此処に来るのは噛み癖のある三毛猫とナナさんであって、決して八魔将の筆頭のミルヒアイスさんではなかった筈なのだが。
 ……私、何かした?
 そういえば、今朝はまだにゃあ助が来ない。
 にゃあ助は毎日我が家に来てはうちのぬいぐるみと遊び、食料を食い尽くし、物を破壊し(時には家も壊し)、ついでに私の手も噛んで帰って行く。
 お陰で私は怪我が絶えない。
 うん、にゃあ助に関しては私には何の落ち度もない。
 ナナさんは……最近お会いしていないし、無問題の筈だ。
 では、ミルヒアイスさんは?
 いつかの学園祭で運転手して頂いたことくらいで……。
 そんなことをぐるぐる考えていると、彼は笑った。
「主からことづてがあって参りました」
 ……はて?
 何やら土産を持っておられたので、座敷に通すことにする。
 奴もひょこひょこ玄関まで出迎えにやって来て、みー、と一鳴きして歓迎の意を示した。
 ……何だコイツ。
 人によってころころ態度を変える嫌なぬいぐるみである。
 茶の間にお通ししてまもなく、主からですという言葉と共に、私がずっと気になっていた紙袋が差し出された。
 御礼を言うと、ちょっと時期的には早いと思うんですが、とミルヒアイスさんが言った。
「ミルクアイスです」
「……」
 聞き間違いをまだ根に持たれているのか。
 その場で固まった私を見て、ぬいぐるみと客人が笑った。
「きっと美味だと思いますよ」
 そんなに言うならこの場でお持たせを提供しようか、と私は本気で考えた。



「体育祭なのですよ」
 彼は言った。
 ……大学で体育祭はあんまり聞きませんが。
「高校です」
 ……は?
「ですから、今度はこの高校に学生として潜入して頂きます」
 ……私は高校生の子供がいてもおかしくない年齢ですが。
「外見は手段を選ばなければいくらでも変えられます」
 ……えーと。痛いのはもう嫌です。体型、もう元に戻ってますし。
「今回はインドの名家のお嬢様です」
 ……拒否権はないのか拒否権は!
「一時的に、なって頂くだけです。そちらのぬいぐるみ持参で、ほんの数日、全寮制お嬢様学校に編入して体育祭に参加して下さればいいのです」
 ……運動神経、壊滅的なんですが。
「周りは貴方のような方ばかりです。この前の飲み会や学園祭でお会いした方々と『インドから留学の高校生として』会って頂けば宜しいのです」
 ……はあ。何だかよく分かりませんが。
「外見を改造致しますので、明日の朝にはお迎えに上がります。……貴方も、ですよ」
 その言葉に猫モドキは嬉しそうに尻尾をぱたりと振ってみせた。



「またお会いしましたね」
 混沌仕様の女性エステシャン2人がにっこりと笑った。
どっかのお笑いコンビみたいな挨拶はやめて欲しかったが、余計なことを言うと後が怖いので、そうですね、とだけ言っておいた。
 足元には猫モドキ。
 背後には霧のお方。
 逃げようったって逃げられない。
 ……はあ。
 溜息をついていると、ミルヒアイスさんが言った。
「今回はそんなに痛くない筈です」
 振り返り、疑いの目で見ると、彼は更に言葉を続けた。
「そう、お願いしてあります」
 ……そうかなあ。
「どうぞ、こちらに」
 エステシャンのお姉さんに手招きされて、私は施術台の上に横になり、ぬいぐるみとミルヒアイスさんは部屋を出て行った。
 その、10秒後。


「ぎゃあああああっ!」


 相対的評価というものに対して、私が非常に懐疑的な思いを抱くのはこんな時だ。
 ……痛いものは痛いんだからねっ!



「脳を少々改造致します」
 白衣を着た男女が口を揃えてそう言った。
 ……何故改造?
「貴方をインドからの留学生にする為です」
 ……おっしゃることがよく分かりませんが。
「言語と文化を脳に直接入力しまして、日本語も少々不自由な感じに仕上げます」
 ……接するのは知ってる方ばかりだから、そこまでしなくていいんじゃないですか?
「確かに皆さんは貴方の正体を知っています。けれど今回は『インドのマハラジャの娘』を演じて頂かなければならないのです」
 外見だけはインド人の少女っぽくなった私に、ミルヒアイスさんが言った。
「勿論、皆さんは貴方をインドからの留学生で、黒百合女学院高等部1年の、白百合の騎士として扱います。」
 ……白百合の騎士?
「学院の伝統でしてね、黒百合の君と対になるのが白百合の騎士です」
 ……私、同性に恋愛感情は持たないんですが。
「それは問題ありません。貴方は演劇部の2年生とコンビを組んで頂きます」
 ……演劇部?
「『偏屈王』の主演女優です」



 ……成程、そういうことか。
 私は周りを見回して納得した。
 確かに見たことある方ばかりなのだが、姿が少しずつ違う。
 聖職者だったり養護教諭だったり犬だったり。
 そして、今回の相方は宝塚の男役。
 でも、色々改造される時に激痛を伴う、そんな話を誰からも聞かないのは何故だろう。
 不公平だ。不条理だ。
 黒百合候補と肩を並べて歩いていると、転入生が向こうからやって来た。
 事前情報としては、怪王二千面相が狙っている少女とのことだったが、他からも多々狙われているんじゃないかと個人的には思う。
 だから、だろうか。
 ……イヤな、空気。
 彼女か彼女の周りからか分からないが、何か色々どす黒いものが漂っているような気がする。
 革袋の中の猫モドキも反応している。
 この雰囲気は苦手だ。
 とりあえずこの場から逃げることにした。
「アサト、ワタシ、あっちいく。またあと」
 ……ううっ。
 どんなに頑張っても日本語が片言になってしまう。
 ……くっそー、なにした、あいつら!
 頭の中でこっそり悪態をついても何も変わらないけれど。
 しかも用意された革の袋はしっかりエルメスだったりするし。
 中に入ったぬいぐるみがこの袋をいたく気に入っているのも何だか腹が立つ。
 でも、この袋を捨てる訳にはいかない。
『必要な時に必要な姿に変わります』
 ……ネコの、エサ?
 嫌味でそう言ってみたのだが、あっさり笑顔でスルーされた。
 混沌からの貸出品。
 何らかの武器のようなものになること間違いない。
 ……シゴト、危ない?
 口から出る言葉は全て片言ではあるのだが、流石赤毛の御人、そのあたりはかなり意味を汲み取って下さる。
『貴方に直接危険があるとは思いません。万が一、ということを考えて、です。宗家彗星舎の地獄極楽プリンのようなものです』
 嫌味かそれは。
 手榴弾かな、などとない頭を振り絞って考えてみたが、さっぱりよく分からない。
 しかも、貸出というのが泣けて来る。
 どんだけ信用ないんだか。
 何故、ここまでする必要が?
『彼女をこちら側に引き止めておく為です』
 黒百合の君を守る為に。
 ……おおげさ。
『あの方の趣味、と申し上げておきます』
 ミルヒアイスさんは真面目な顔をして答えた。



 夜中、高価な革袋が暴れ出した。
 正確には、革袋の中で大人しくしていたぬいぐるみに革袋ごと飛びかかれたのである。
 ドアの隙間から染み出て来る、黒い、嫌な空気。
 ……ヤバい。
 革袋を掴んで部屋のドアを開けると、足元の辺り、黒い煙が充満した廊下を犬が走り抜けて行くのが見えた。
「『彼女』が危ない」
 関係者が私の顔を見るなりそう言って、犬を追いかけて行く。
 私も後に続いて走る。
 黒い煙の源はやはり彼女の部屋だった。
 関係者が部屋の前に詰めかける中、誰かが施錠されたドアを開くと、ぶわあっと黒い煙が廊下に流れ込んで来た。
 犬がまず突入し、直後、何かと争っている音が聞こえた。
 ……バスカヴィル。
 学院の犬が襲いかかったのは、青白く光る魔犬。
 思わず顔を強ばらせると、革袋がもごもご動き、猫モドキが顔を出した。
 そのまま袋から出たので左手で抱えた途端、右手に残った革袋が光を放ちながら変形していくではないか。
 袋はほんの数秒で、見覚えのある杖に変わった。
 ……うそっ。
 贈与禁止、貸出オンリー。
 どおりでうちのぬいぐるみが袋から出なかった訳だ。
出なかったのではない。
 出られなかったのだろう。
 私も含めて、関係者全員が戦闘体制になった頃、学院の犬とあの方付きのメイドが魔犬を完全に撃退した。
 すぐさま赤毛の方が彼女を保護、部屋に詰めかけた我々も安全を確認してそれぞれの部屋に戻って行った。
 廊下も部屋も空気はすっかり浄化され、自分の部屋に戻る頃にはぬいぐるみも革袋の中に戻っていた。



 演劇部の黒百合候補たる相方と歩いていたら、合唱部の有力メンバーと遭遇した。
 学園祭の時には、共に艱難辛苦を乗り越えた仲間。
 目を合わせた途端、お互いつい歌い出してしまった。
 言葉は片言でも、不思議なことに歌は歌える。
 さすがにアニメのメドレーはまずいけれど、各国の民謡のようなものなら大丈夫だろう。
 2人で歌っていると、仕方ないと思ったのかアサトも神父も何処からか楽器を調達してきて、伴奏を始めた。
 我々の周りに人が集まる。
『彼女』も遠くから見ている。
 革袋から解放されたぬいぐるみも、いつの間にか猫好きな方と踊り出している。
 平和な光景。
 こうして歌を歌ったり踊ったりしている間だけは、二千面相からの予告状が来ているという話や、学院に漂う緊迫感も忘れられる。
 体育祭がつつがなく終わりますように。
 私は心の中で祈った。



 体育祭。
 前日辺りから来ていたらしい絹屋市先生や助手の方々も警戒に当たる中、競技は淡々と行われていた。
 ──表面上は。
『彼女』を守る為に集められた人々(犬もいるが)は、空き時間ひたすら何らかの方法で身につけた武術やら魔術やらの訓練とパトロールと戦闘に明け暮れていた為、疲労困憊の者も少なくなかった。
 それで本来の体育祭の競技に参加しなくてはならないのだから、競技は手抜きにならざるを得ない。
 パトロール中に現れる魔物は片っ端から退治する訳だが、その都度私の手にある革袋は杖に変わり、ぬいぐるみが姿を現すのだった。
「ゴハン、たべたい!」
 にわか魔法使いの私が呪文など知る由もなく、魔法は杖に頼りきりで、口から出て来る言葉はくだらないものばかりである。
「貴方は魔法使いの映画の1つも見るべきです」
 ……オマエ、うるさい。
 八魔将筆頭のエライ人に対しても、片言しか喋れない今なら乱暴な言葉を投げつけられる。
「呪文の詠唱を舐めてもらっては困ります」
 ……だって、知らない。
「覚えて下さい」
 ……どらぐすれいぶならすぐ言える。
「我が主の怒りをかってもいいのですか?」
 ……覚える。
 直後、訓練には呪文の詠唱がプラスされ、間違えるとぬいぐるみに噛みつかれるというオプションまで付くようになった。
 更に。
 仲間との連携だとかフォーメーションだとか合わせ技まで加わり、『裏・体育祭』の様相を呈して来た――のは気のせいだろうか。
 よって、本来の体育祭は『彼女』の独壇場となったのは仕方ないことだろう。
「騎馬戦、そろそろだよ」
 関係者の1人に言われて、思わず口から出たのは。
 ……保健室。
「許される訳ないでしょう」
 分かってるけど。
 おっかしいなあ、ただの留学生の筈だったのに。
 騎馬戦、すぐに終わるといいなあ、と呟いたら、革袋からぬっと出て来た奴に引っ掻かれた。
 でも、何のかんのと言いながらも、本来の体育祭でも必死になってしまうもので、騎馬戦の最中にぬいぐるみに制止されるまでそのことに気づかなかった私も私である。
 ……疲れた。
 グランドに座り込んだ私に、ばっかじゃないの何で手を抜かなかったんだよ、とばかりに猫モドキがみーと鳴いた。
 ……風。
 生暖かくて、嫌な風。
 訳もなく、裏・体育祭の「本番」が迫っているのを感じた。
 少しずつ、少しずつ、緊張から顔が強ばっていく。

 みー。

 猫モドキの声に、私は立ち上がった。
 行かねばならない。
 痛いのは嫌だけど、それでも。



 パトロール中の仲間から、魔物の大量発生の情報を受け、関係者全員が体育祭を抜け出した。
 怪王の手下達。
 大きなものから小さなものまで、魔物は次から次へと現れる。
「タソガレヨリモ――」
 直後、ぬいぐるみに噛みつかれて、本来の呪文に切り替える。
 杖を振れば、この数日で鍛えられた成果が出て、あっという間に複数のものが吹き飛ぶ。
 しかし、余裕があったのは最初だけ。
 度重なる戦闘で疲労はピークに達し、最後に残った大物に我々は手をやいていた。
 合わせ技も全く効かない。
 時間稼ぎに放った魔法の炎で、あの方から貸し出された杖にもヒビが入る始末だ。
 笑うしかない。
「アサト、これから、どうする? 逃げ出すか?」
 炎はいずれ綺麗さっぱりなくなるだろうと頭の隅で考えながら、前方に立つ司令塔たる相方に問う。
 彼女は振り返り、仲間に対して無言で同様の問いかけをした。
 けれど、誰も退却を望んでなどいない。
 前進あるのみ。
 そう。そうでなくては面白くない。
 私も含めて馬鹿ばかりだ、と苦笑いして足元を見れば、猫モドキが尻尾をパタリと振った。
 この程度の炎では、目の前の緑色したバケモノには全く効果はないだろう。
 我々が戦っていること自体が時間稼ぎなのだろう、と自嘲しつつ、次に予想される攻撃に備える。
 バケモノが前進を始めた途端。
 ……氷の輪。
 あの方だ、と思う間もなく、バケモノは氷に包まれて動きが止まり、完全に凍りついた。
 足元にいた猫モドキがすかさず飛び出して猫パンチを繰り出せば、バケモノは氷もろとも砕け散る。
「組体操、始まりますよ」
 誰かの声に、出場者は慌てて体育祭に戻って行ったが、ヘタレな私はその場に座り込んでしまった。
 もう、杖はあまりもたないだろう、と何となく思う。
 みー、と奴が心配そうに鳴いた。
 ……戻ろう。
 私はゆっくりと立ち上がり、猫モドキと共にその場を離れた。
 閉会式まではパトロールをしなければならないけれど、誰もいない教室でこっそり居眠りをするくらいは許して貰えるだろう、と思いながら。







 ぬいぐるみに引っ掻かれて目が覚めると、目の前には八魔将筆頭の御方が立っていた。
「差し入れです」
 そう言って差し出されたコップの中身はオレンジジュースのようだった。
 ……?
 疲れているからか疑心暗鬼になっている私がコップを持ったままじっと中身を見つめていると、彼は言った。
「疲れがとれます」
 ……。
「注射がよかったですか?」
 ……飲みます。
 甘いんだか苦いんだかよく分からない液体を飲み干すと、彼はコップを受け取りながら言った。
「これで疲れがとれる筈です」
 ……ありがとう、なのだ。
 一応御礼は言ったけど、何だかまた眠くなったような。
「肉体改造と脳内改造を行った際にちょっと付加したものがありましてね」
 ……オマエ、なに、した。
「大したことではありません。ちょっと魔力をつけて頂いたのですが、何せ混沌仕様なものですから普通の人間には強大過ぎるのですよ。そこで貴方が持て余しそうな部分には一応封印を施して調整してた訳なんですが、そろそろ限界だろうと思いまして」
 急激な睡魔に襲われ、私は再び机に突っ伏した。
 だから。
 その直後、ぬいぐるみが机の上に飛び乗って霧の御方を睨みつけ、彼が肩を竦めて教室を出て行ったことなど知る由もなく、眠り続けたのだった。



 結局、閉会式はバックレてしまい、日が傾いた頃、ようやく目が覚めた。
 逢魔ヶ刻。
 学院に現れる黒い影。
 黒百合を求めて止まない怪王は『彼女』を拐いにやって来た。
 ──予定通り。
 あの方が怪王の相手をしている間、我々はまたもや山程いる手下の相手をした。
 訳の分からぬ液体のお陰で、疲労が綺麗に消え、魔法は絶好調。
 あの手の液体を飲まされた人は私だけではなかったのだろう。
 皆、体力・気力共に驚異的に回復している。
 そんな訳で次々と合わせ技が決まり、多少、あの方のお手を煩わせたものの、我々は相手方を完膚なきまでに叩きのめした。
 これで今回の任務は完了となった。




 私はその日のうちに元の外見と元の能力を取り戻し、備品返却の後に魔女生活を終えて帰宅したのだが。
 ……何かもう、色々疲れた。
 身体はあちこち軋むし、ゴハンだけ作って後は横になってばかりである。
 疲労感は半端でなく、さすがのぬいぐるみも噛んだり引っ掻いたりは自粛しているようだった。
 そんな、或る日。
 朝御飯を食べて横になっていると、紺ちゃんが助けに──いや、遊びに来てくれた。
 私の顔を見るなり、彼女は言った。
「あの……何だか門の外に立ってた男性が御見舞いだと言って……」
 ……へ?
 赤毛で背が高かったと言う。
 ……ミルヒアイスさんだ。
 でも、何で中に入って来なかったんだろう?
「ぬいぐるみが怖いから入れないって言ってましたけど……」
 ……あんた、何かしたの?!
 思わず奴を凝視してしまったが、猫モドキは知らん顔をして、あの方の御見舞いだという紙袋を覗き込んでいる。
「あら、中身はプリンみたいですよ」
 ……地獄極楽プリンだな。
 プリンを奴に1つ分けてやると、私も1つ自分の分を手に取った。
「それにしても、随分体調悪そうですけど……」
 ……それはもう。多分寿命が縮んだんじゃないかと。
 気力も体力も限界越えて使い果たしましたからね。
 かいつまんで話をすると、紺ちゃんはいたく同情してくれて、また暫く体調が良くなるまで家に手伝いに来てくれることになった。
 困った時の御近所である。
 でも。
「若奥様をこきつかったら、怒られるかなあ」
 そう言うと、紺ちゃんはクスッと笑い、奴も尻尾をぱたりと振った。


 にゃあ。


 本物の三毛猫も、縁側から顔を出した。
 ほんの数日、家をあけただけなのだが、何だか暫く会っていないような気がした。
 久し振りだね、と言うと、座敷に上がり込み、枕元にちょこんと座る。



 爽やかな風が部屋を吹き抜けて行った。





(終わり)







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