施錠


♭1



扉を、閉める。


数字は段々増えていく。
他人が自分の領域に何人入ったかを示す数字。
最初は一桁だった。
誰が見ている訳でもない。
現実に適応すべく様々な仮面をつけて生きているけれど、此処ではその必要はなかった。
暫くしたら二桁。
僅かな人達の為に、自分の為に、気持ちを其処にぶつけた。
大切な逃げ場であり、ありのままの自分を受け入れてくれる貴重な場所だった。
それが何故か三桁。
今では四桁になってしまっている。
知り合いが千人もいる筈がない。
やって来るのは殆ど自分が知らない人間達だ。


自分のことを見て欲しかった。
息を殺して生きているあまり、誰にも省みられることのない自分を。
だから此処を作ったのに。
それなのに。
今、この瞬間にも数字は少しずつ増えていく、そのことが。
それが、苦痛で仕方ない。




♯1


携帯を開いてお気に入りのブログを見る。
(今日も、更新されてない)
此処を知ったのは1ヶ月前。
たまたま見た新着記事で、その人の言葉に衝撃を受けた。
心を抉られたと思い、それでいて決して不快ではなかった。
自分に代わって、鬱屈した心を言葉にしてくれているように思った。
あの日以来、このブログの過去記事を読みあさっている。

ただ、気になるのはブログを見つけた日以来、ずっと更新がないということだ。



♭2


日に日に増えていく数字に、為す術はない。
コメント欄には見ず知らずの人間から山程の言葉が積み重なっている。
訪問者数が二桁、三桁のはじめの頃は、定期的に訪れてくれる僅かな人々との交流があった。
直接会ったことはなくとも言葉のやりとりを密に出来ていた。
それが、今では。
つながりのあった人々とのやりとりすらままならない。
コメントの返事も出来ず、ただ見知らぬ人々の言葉を恐怖に感じるだけだ。


自分の居場所は少しずつ見ず知らずの人間に侵蝕されていく。




♯2


過去記事の中に特に気に入っているものが幾つかある。
その記事は此処を覗く度に読み耽る。
読む度に胸の奥がじんとする。
生きていることが辛くても。
現実的に泣くことすら出来なくても。
それでも、こうして此処に立っている。


コメントする度胸はないから記事を読むだけ。
けれど、自分の思いを代弁してくれるこのブログ主を心の中でいつも応援している。




♭3


増えていく数字が恐ろしい。
カウンターは回り続ける。
自分が発信した言葉に対して、その数百倍の威力で撥ね返って来る知らない言葉。
自分で作った自分の居場所の筈だった。
けれど。
此処に言葉を綴ることなど出来はしない。


あの、幸せだった頃を取り戻さなければならない。
此処が他者にのっとられてしまう前に。




♯3


(新着記事が上がってる)
クリックしてあのブログを開いてみれば。
(え……?)
記事は1つ。
たった1つ。
他の記事は消え失せていた。
(どうして?)
たった1つの、新しい記事を開いてみれば。


『今まで、このような稚拙なブログを見て下さって、ありがとうございました。
個人的な事情により、此処は閉めさせて頂きます。
皆様、お元気で』


コメント欄やトラックバックは閉じられ、他の人間にはメッセージが残せない仕様になっている。
(どうして?)
あんなに素敵な言葉を、何故あっさり削除出来るのだろう?
支持者も沢山いて、多くのコメントが寄せられていたのに。
(ひどい)
何度も読み返し、こうしている今も読みたい記事があるのに。
この悲しみも、怒りも、ブログ主への感謝の気持ちも、何一つ伝えられないなんて。


涙が、こぼれた。




♭4



たった1つの記事が残るトップページを確認してから、ログインする。
すると其処には、以前と変わらず書き連ねた記事が並んでいる。
(削除なんて、とんでもない)
非公開にしただけだ。
大切な、自ら生み出した言葉を消し去ることなど出来はしない。
こうして、此処はこれ以上誰の目にも触れさせることなく、守られていくのだ。
誰にも邪魔されない、穏やかで平和な自分だけの楽園。
何と幸せなことだろう。
これでまた、この場所で言葉を紡いでゆける。



そして、今日も。
ブログ主はパソコンに向かって、思いのままに、感じたままに、文字を並べている。
誰の目も気にすることなく。
誰の目にもとまることなく。


閉ざされた扉の向こうで。





(終わり)








[ 1/10 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -