権力者と私


家族揃って朝食。
この国から段々となくなりつつある風景。
それが毎朝拝めるなんて、何て天然記念物な我が家。
ごはんとお味噌汁とお魚と。
何て素敵な朝ごはん。
「麻衣! オクラも食べて行きなさいよ」
……ううっ。
避けてたのに。
だからあたしはネバネバが嫌いなんだってば!
大体朝から何でこんなもん食べなきゃなんないの!
「せめて1本分くらいは食べなさい」
「朝からラッパ吹くのにネバネバが糸引いたらヤだ」
「歯磨きすればいいでしょう」
同じテーブルについている父は母の小言には口を挟まずに黙々と食べている。
こんな時、娘を庇うなんてことは絶対にしてくれない。
我が家では最高権力者は間違いなく母だ。
……ったく。
このまま食べずにいたら、家から出してはもらえない。
朝練に遅刻するのは避けたい。
この際、ネバネバには目を瞑るしかない。
あたしはオクラとごはんを口の中に放り込んだ。
……ううっ。キモチワルイ。
お味噌汁で何とか流し込み、さっさと食事をすませて席を立つ。
納豆じゃないだけマシだと思うことにする。
納豆なんかあのにおいだけで人を殺せると思う。
母親がうるさいから食べるけど。
……そうだ、そういえば。
今日は『いいとも』撮らなきゃ。
父親のせいで、我が家では未だに録画はビデオ。
急いでテープをセットして録画予約。
母親の罵声を合間に聞きながら、バタバタとリビングと部屋を行き来して、いつもの時間に家を出る。
家から走り通せば朝練にギリギリ間に合う。
「行って来ま〜す」
あたしは鞄を持って、靴を履きながらドアを開け、団地の廊下を走り抜けた。




(終わり)







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