昼休みの戦い


昼休みは戦場だ。
時間は12時から1時と決まっている。
けれど、食事は12時半までに終わらせなければならない。
注文していたお弁当を目の前に用意して、マグカップにティーバッグを突っ込んでお湯を入れただけのお茶を作り、食べられる体制になるのに何故か5分かかってしまう。
だから、純粋な食事時間は25分。
12時半になったら強制終了になってしまう。
小さい頃から食べるのが遅く、給食もあまり食べられないまま片付けることが多かった季里(きり)は、必死に口と箸を動かしていた。
話しながら食事など絶対に出来ない。
同僚の話には辛うじて頷いてはみるものの、それだけで精一杯だ。
「イグアナってトカゲでしょ?」
周りは昨夜見たテレビの話題で盛り上がっている。
「ペット飼うならちゃんと責任持って最後まで買わなきゃ駄目なのにね」
「って言うか、トカゲを飼うってこと自体が信じらんない」
「ええっ、可愛いじゃん」
「食べたら美味しいのかな?」
「何でまたすぐに食用にするかな」
周りはあっという間に食べ終わってお喋りに興じているのに、季里は必死で箸を動かす。
ランチはまだ3分の1程残っているが、残り時間は3分の1を切ってしまっている。
隣席の友人がさりげなく壁の時計を見て言った。
「あと5分だよ」
その言葉に頷きつつ、イカの天ぷらと格闘する。
季里は実はゲソの方が好きなのだが、安さを追求すべく海外で作られた冷凍品を主に使用する業者のランチに入っている筈もない。
何とか半分程噛み砕き、ごはんを口に含み、お茶を飲んだら時計の長針が真下をさしているのに気がついた。
タイムリミット。
「時間だね」
友人の言葉に頷いてランチの蓋を閉め、みんなと一緒にばたばたと片付け始めた。
……また残してしまった。
食べかけのごはん。
歯形のついたイカの天ぷら。
掬い切れなかったヒジキ。
そして、マグカップの中のお茶は半分以上入っている。
「季里、其処でお茶飲んでていいよ。みんな器を洗うの時間かかるから」
その言葉に甘えて、立ったまま流しの近くで立ったまま冷めたお茶をすすった。
「お前ら早くしろっ! 業者が引き取りに来るだろっ!」
「は〜い、すみませ〜ん」
――お弁当屋さん、1時過ぎないと来ないのにね。
ヒソヒソお喋りをする周りに同調しつつ、今日も季里の戦いは終わり、のろまな自分自身に溜息をつく。
そして。
マグカップに沈んだティーバッグを捨てた。



(終わり)





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