同級生


部屋に、キノコが生えた。
そう和倉が言うと、金沢は身を乗り出して来た。
「食えんの? それ」
「……無理だろ、普通」
梅雨が明けて、いよいよ昼間は部屋にいるのが苦痛になった、或る日の夕方。
「食わねーなら貰うけど」
「やめとけよ」
「何で」
「医療費がかかる」
「医者なんかいらないよ」
「本当かなあ」
あれはどう見ても食べられないだろう、と和倉は思った。
「凄いよな。何もしてないのに食い物が収穫出来るなんてさあ。夢だよなあ」
「だからあれは食べられないって」
金沢はよく他人の話を聞かない。
金がないからと言って、部屋に生えたキノコを食べて死んだりしたらお笑い草だと和倉は思う。



「いらっしゃあい」
彼らが行った先は敦子のアパートだった。
高校時代の同級生なのだがこちらはもう社会人で、時折こうして貧乏学生の友人招いては手料理を振る舞ってくれる。
「悪いな、いつも」
和倉が言うと、敦子は笑った。
「いいよ、別に。キャリア官僚になったらおごってもらうから」
「……いや、逆に役人は薄給な気がするけど」
まあ座って、と敦子は言い、テーブルの上のホットプレートのスイッチを入れた。
「金沢も和倉も、食べていいから」
金沢の視線はテーブルの上の料理に釘付けになっていた。
「頂きまあす!」
金沢は勢いよくそう言って箸を手に取り、和倉も後に続いた。
2人が食べている間に、敦子はホットプレートであれこれ焼き始める。
「その肉、高かったんじゃねー?」
「国産じゃないから大丈夫。だってさ〜、たまには肉も食べたい訳よ、私も」
勝手知ったる何とやらで、金沢は冷蔵庫から缶ビールを取り出して和倉と敦子に渡した。
プルトップを開けてビールに口をつけると、金沢は言った。
「和倉の部屋にキノコが生えたから今度貰うんだ」
「マジで?」
「生えたけど……だからあれは食えないと何度も」
「採ったの?」
「まだ」
「早く採んなよ。ヤバいって。人が住む空間じゃなくなってるんじゃないの?」
「和倉んちはカオスだから」
「和倉は片付け駄目だもんね〜。金沢の方がまだマシだった気がする」
「だって金沢はオンナに片付けて貰ってるから」
「ねーちゃんと言え、ねーちゃんと!」
「お姉さんはオンナでしょ、私と違うんだからさー」
「あ、そうか」
「そうか、じゃないよ、もう」
「いつか取るの?」
「最近はねー、別にいっかー、みたいな」
敦子は焼けた肉や野菜を2人の皿に放り込んで行く。
勿論、自分の取り分も忘れない。
「そういうもんかねえ」
「うーん、別にそのままでもいいんじゃないって言われてさあ」
「吉野に?」
「うん」
「つーか、吉野、よく怒らねーよな。仮にも彼女が部屋に男2人上げてメシ食わせてんのにさ」
「金沢と和倉じゃあ何とも思わないんじゃない?」
「失礼だ、それは」
「吉野、今日は来んの?」
「仕事終わったら来ると思う。買い物メモも渡したし」
「まだ食うのかよ」
「甘いものは別腹」
「アイス?」
「ハーゲンダッツ買って来て、って言っといた」
太るぞ、と和倉が言うと、頭をはたかれた。
結構痛い、と和倉は思った。



ピンポーン、とチャイムの音が部屋に響いた。
開いてるよ〜、と敦子が言うと、玄関のドアが勝手に開いて、仕事帰りの吉野がビニール袋を持って入って来た。
ビニール袋の中身を見た敦子は、ありがとう、と言って微笑んだ。
見ていられないとばかりに、2人はそっぽを向いてビールを煽った。





(終わり)







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