小田原駅


小田原駅の快速夜行が停まるホームには人が沢山いた。
皆、乗車口の印の所に荷物を下ろして、電車を待っている。
今日も夜行は満席だというアナウンスが流れる。
列車が入線すると、それを待ち構えて携帯やカメラで撮影する人間を横目で見ながら、瑞紀は列車に乗り込んだ。
通路をはさんで、2人掛けのシートが並んでいる。
瑞紀の席は通路側だった。
……隣、まだいないなあ。
足元に荷物を置いて、ほっと一息ついていると、通路を歩いて来た人が、自分の席の前で止まった。
「小野寺、ちょっとどいて」
反射的に荷物を自分の膝の上に引き上げ、足を引っ込めて、その人物が自分の隣に座るのを許してしまったが。
……嘘、でしょう?
荷物を抱えたまま、隣を振り返る。
瑞紀は、網棚に荷物を上げている、津久井尚哉(つくい・なおや)の姿を呆然として眺めた。


――友情か愛情か。
それはいつでも難しい問題だ。
「津久井君のことが好き」
順子がこっそり教えてくれた、あの時から。
瑞紀は自分の気持ちを、想いを、殺した。
誰にも知られてはならなかった。
根っからオンナで積極的な順子。
あっという間に津久井尚哉の彼女におさまり、瑞紀は散々ノロケ話を聞かされた。
そんな地獄のような学生時代が終わり、社会人になって、順子ともあまり行き来がなくなって、忘れかけていたのに。
……しつこいな、私も。
そんな因縁の相手が朝まで隣とは。
瑞紀は鞄から文庫本を取り出した。
今夜は眠れそうにない。


車掌が検札に回って来た。
瑞紀は自分の切符を2枚、車掌に差し出し、津久井もまた切符を差し出した。
彼の切符も瑞紀と同じ。
大垣までの指定券と、まだ1ヶ所しかスタンプが捺されていない乗り放題の切符。
「――小野寺、何処行くの」
車掌が他の席に移動するなり、彼は尋ねた。
「鳥取経由で米子。津久井君は?」
「松山」
「乗りっ放しだね」
「小野寺もそうだろ」
「まあね」
津久井は手元のペットボトルを引き寄せた。
「……京都までは一緒だな」
「そうだね」
瑞紀は上着を羽織り、音楽を聴くべくイヤフォンを耳に当て、また文庫本を開き。
津久井は頬杖をついて窓を眺めた。

――あと、8時間。





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