出発点の移動



東京駅。
都内在住の小野寺瑞紀(おのでら・みずき)にとっては、旅の出発点となる駅。
――今までは、そうだったのだが。
……やれやれ。
瑞紀は不本意ながら、私鉄で小田原に向かっていた。
これも節約の為と思えば致し方ない。
常に財布の中に秋風が吹いている瑞紀にとって、某鉄道会社が期間限定で販売している、快速・普通列車乗り放題の切符は、旅行には欠かせないアイテムだ。
午前0時から翌日の午前0時を過ぎて最初に停まる駅まで有効の切符。
5回分ついていて大体1万円くらい。
だから、1日につき2千円程。
これを鞄に入れていつも旅をする。
快速列車には夜行もあって、指定券は数百円。
乗り放題の切符にプラス数百円で一夜の宿兼移動手段になるのだから有難い。
特に瑞紀が利用するのが、大垣行きの夜行。
乗り放題の切符が使える期間は指定券が取りにくいのだが、瑞紀は会社を休んで駅の窓口に並び、今回もきっちり手に入れていた。
……前回は東京からだったのに。
鞄の中の指定券は小田原―大垣。
瑞紀は腹の中で、鉄道会社に対する恨み辛みを呟いた。
……おのれ。何でダイヤを変えやがった。
ついこのあいだのダイヤ改正で、東京駅を0時少し前に出ていた大垣夜行は、出発が11時過ぎに変更になった。
乗り放題の切符を持った人間は、それまで東京―横浜の切符を別に買い、乗り放題の切符は午前0時を過ぎて停まる横浜から使えば無駄がなくて良かったのに。
ダイヤ改正後、午前0時を過ぎて停まる駅は小田原になってしまった。
東京―小田原なんて高い切符を買うくらいなら、小田原まで安い私鉄を使った方がいい。
瑞紀は吊革を掴み直し、窓に映った乗客達を眺めた。
夜遅くても車内は混んでいる。
疲れた顔のOL。
酔っ払ったサラリーマン。
立ったまま器用に寝ている学生。
何気なく乗客達を見ていた瑞紀は、途中で見知った顔を見つけて、慌てて目を伏せた。
……まさか。
いかにも旅行者といった装い。
彼も快速夜行に乗るんじゃないだろうか。
瑞紀は気恥ずかしくなって、次の駅で車両を変えた。





[ 1/10 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -