京都駅



瑞紀はそっと津久井から離れると、降りる準備を始めた。
『岡山経由に変更しない?』
津久井の言葉に気持ちは揺れた。
でも。
京都でも岡山でも別れるのは同じ。
ならば、予定通り砂丘を見に行こう。
そう、心は決まっていた。
全て鞄の中におさめて、窓の外を見る。
……いい天気。
長いようであっという間の津久井との道中だった。
「瑞紀、今日は米子で、明日は何処行くの」
「大垣から夜行に乗って、家に帰るけど」
すると、津久井は声を上げて笑った。
「――ちょっと指定券見せて」
瑞紀が帰りの指定券を見せると、津久井は少し悔しそうな顔をした。
「あ〜、やっぱり違ったか」
「まさか、津久井君も明日は大垣から夜行?」
「そう。でも車両が違う」
瑞紀に見せた指定券は、確かに車両が違っていた。
「本当だ」
「流石に行き帰り席が隣ってことはないよな〜」
「そりゃそうでしょ、別々に買ってるんだから」
……でも。
「岡山で会えるかも」
瑞紀が悪戯っぽく言うと、津久井が目を見開いた。
「私、明日は米子から伯備線経由で大垣行くから」
「マジで?」
「嘘なんか言わないよ」
「新見発で、夕方の6時に岡山を通る奴かっ」
「そうだよ。それに乗らないと間に合わないじゃん」
「……探すからっ」
「うん。乗ってるから探して」
瑞紀は笑った。
列車は京都駅のホームに滑り込んで行く。
津久井は立ち上がって通路に出て瑞紀を送り出し、瑞紀が通路に出るとまた席に座った。
列車は停車した。
「じゃあ、また明日」
「また明日」
瑞紀は振り返らずに列車を降りて、まっすぐ山陰本線のホームへ向かった。
津久井はじっと瑞紀の姿を追っていた。
まもなくドアが閉まり、列車は静かに動き出した。

「あと、1日と9時間か」

津久井は独り、呟いた。
「長いなあ……」
そして、おもむろに携帯を開き、メールを打ち始めた。

――『明日の夕方、絶対探すから』
と。




(終わり)






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