草津駅



寝不足がたたって、起きているのか寝ているのか、自分でもよく分からない。
そんな状態で津久井の肩にもたれていると、このまま一緒に松山まで行ってしまおうかとも思えてくる。
端から見れば、完全に旅行中のカップルに見えるに違いない。
「小野寺、起きてる?」
「起きてる」
「携帯貸して」
言われるままに携帯を渡すと、津久井は何やら操作していたかと思うと、携帯を瑞紀に返した。
するといきなり瑞紀の携帯が震えた。
画面を見ると、知らない番号が出ている。
「……それ、俺の携帯の番号」
電話が切れたかと思うと、また携帯が震え出す。
「……今のがメール」
「……」
「頼むから消すなよ」
「うん」
津久井に寄りかかったまま、携帯を操作して、アドレス帳に登録する。
「……これでいい?」
津久井に画面を見せたのだが。
「名前が違う」
「どうして? 津久井君は津久井君でしょ」
「……下の名前にしてくれる?」
そう言うと、瑞紀から携帯を取り上げて、名前を変えてしまう。
帰って来た携帯の画面を見ると。
――尚哉。
横から差し出された津久井の携帯の画面には。
――瑞紀。
「……何か、変」
「何処が」
「名字じゃないから」
「そう?」
「だって私は小野寺だし、そっちは津久井君なのに」
「俺はもう瑞紀って呼ぶからいいの」
「……絶対やだ」
「何で」
「何かやだ」
「瑞紀」
「……」
瑞紀は嫌な顔をしたが、津久井は喉の奥で笑っている。
「瑞紀、米子行くの岡山経由に変更しない?」
「砂丘見たいから嫌」
「だよなあ、やっぱり」
「そっちこそ、変更すれば? 時間あるんだから、山陰線少し乗ればいいじゃない」
「無茶言うな」
瑞紀がくすくす笑うと、津久井が呟いた。
「やっぱり、京都までか」
列車は草津駅を発車した。

――あと、24分。






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