大垣駅



列車が停まる頃には降りる準備は完璧に終わっていた。
「先、行くから」
そう言って瑞紀は席を立った。
夜行列車の終点。
乗客達は西へ行く列車に乗り換える。
ドアが開くや否や、瑞紀は乗り換える列車に向かって走った。
席を確保してほっと一息ついた直後。
「いやいや、早い早い」
津久井はストンと隣に腰を下ろした。
今度は瑞紀が窓側で、津久井が通路側。
……これでまた30分一緒、か。
「……何でまた隣に座るの」
「空いてるから」
「他にもあるでしょ」
「俺はあなたの隣に座りたいの」
……呆れたんじゃなかったの?
面倒くさいとか言ってなかったっけ?
大垣で別れることになるだろうと思っていたのに。
だから、先に降りたのに。
そんな気持ちとは裏腹に、瑞紀の口はこんな言葉を吐く。
「……勝手にすれば」
ぷいっと窓の方を向く。
隣の男はしれっと言った。
「勝手にしますよ」


『瑞紀っ、一緒に帰ろうっ』
走り寄って来た順子の姿を見て、瑞紀は言った。
『今日、津久井君は一緒じゃないの?』
『休講なのが分かってたからバイト入れたんだって』
『ふうん。でも、私、今日は用があるからまだ帰れないよ?』
『待ってるから大丈夫』
瑞紀はこめかみを押さえながら言った。
『たまには独りで帰りなさいよ』
『ええっ?! 瑞紀、冷たいっ』
『だってあと2時間は帰れないよ?』
『いいのっ。待ってるっ』
……何で単独行動が出来ないんだコイツは。
瑞紀は溜息をついた。
『しょうがないなあ』
――こんなやりとりは時々あった。
順子は一緒に帰る為だったら、何時間でも待っていただろう。
寂しがり屋だから。
そう思っていたけれど。
……もしかしたら。
単独行動の多い瑞紀のことが心配だったのかも知れない。
放っておけなかったのかも知れない。
……何でそーゆーことを言わないんだよっ。
大事なことは何一つ。
あんたと違って私は鈍いんだから言わなきゃ分からないよっ。
……悔しい。


「……小野寺っ、どうしたっ」
瑞紀がはっとして目を開けると、目の前には津久井の心配そうな顔があった。
「寝ながら泣くなよ」
「え……?」
頬に手をやると、確かに濡れている。
慌てて上着の袖で涙をぬぐった。
「小西のこと、考えてたのか」
聞かれて、瑞紀は頷いた。
「悔しいなあ」
「何が」
「俺、小西に負けてるんだ……」
「何で津久井君が順子に負けるの?」
瑞紀が尋ねると、津久井は言った。
「小野寺が泣いてるのなんか俺、見たことなかったからそれだけでも驚いてるのにさ〜、泣かしたのは目の前の俺じゃなくて、此処にはいない小西なんだもん」
……確かに。
「……今、何処?」
掠れる声で尋ねる。
「もうすぐ米原」
米原。
新快速への乗り換え。

――あと、1時間と少し。






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