名古屋駅



眠るどころかますます目が冴えてくる。
どんなに隣を視界に入れずに音楽を聴いて遮断していても、様々な感情が入り乱れ、瑞紀の脳内は崩壊寸前だった。
本を読む余裕もない。
ひたすら自分の感情と戦っているような感じだ。
そして。
隣も寝ていない。
瑞紀は思う。
何故津久井はあんなことを言ったのだろう。
あとで気まずくなるのは分かりきっているのに。
大垣まではあと1時間。
大垣に着いたら乗り換えだから、その時離れよう。
限界だ、と瑞紀は思った。


「……意外とウブだよな」
遮断している筈の隣の声が聞こえて、瑞紀は振り向く。
曲と曲との間の僅かな無音の時間。
何でこのタイミングで音が途切れるのだろう。
「小西が言った意味が分かったよ。押したら逃げられるって」
「……」
瑞紀はイヤフォンを外した。
流石に車内なので、津久井は瑞紀にしか聞こえないくらいの小声で、低いトーンで喋っている。
「小西が最後に言ったんだ。小野寺が俺を避けていたのは嫌いだからじゃないって。むしろその逆だって」
「……」
瑞紀は目を見開いた。
……隠していたのに。
順子は知っていたのだ。
何もかも。
「でも押したら駄目だって言われたよ。じわじわと侵食していくようにしなきゃ駄目だって」
――どうして。
何故順子は、自分が惚れた男にそこまでするのだろう。
放っておけばいいのに、どうして。
……泣けてくる。
「俺にはじわじわ、ゆっくり、なんて出来なかった」
忠告、聞いとくんだったな、と津久井は呟く。
「……何で泣くんだよ」
「順子が……順子がそんなこと言うからっ……」
かすれた声で瑞紀が言うと、俺じゃないのか、と津久井は嫌な顔をした。
「自惚れるんじゃないっ」
「……そうだな」
津久井は喉の奥で笑う。
「何で友達に男を譲られなきゃいけないのよっ」
「それはお前が最初に手を引いたからだろっ」
「だってそのせいであの子との仲がぎくしゃくするの嫌だもんっ」
「……っとーにお前って面倒くさいよな」
津久井はシートに深くもたれて呟いた。
……呆れられたかも知れない。
瑞紀はそう思った。
外はとっくに明るくなっているというのに、このぐしゃぐしゃ加減は何なのだろう。

――あと、2時間半。






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