解き放て


……鬱陶しいなあ。
里菜(りな)は思った。
腰まで伸びた長い髪。
この夏の暑さに耐えかねて、数日考えた末、数年振りにやることにした。


「いいの〜?」
いつも行く美容院のスタッフは言った。
「やっちゃって下さい」
里菜がおどけてそう言うと、スタッフは濡らした髪を丁寧に縛り、ゴムの根本に鋏を入れた。

ざく。

それだけで頭は軽くなる。
鏡に映った姿は数年前の自分。
若返ったかなあ。
美容院のスタッフに言ったら「まだ充分若いっ!」と怒られそうなことを思う。
「いやあ、今年一番かも」
切り取った髪の束を見て、スタッフは言った。
「もうこんな長いのには暫くお目にかかれないね〜」
長い人ってなかなか切らないから、と続ける。
あははは、と里菜は笑った。


絶え間なく鋏の音が聞こえる。
それにつれて、髪はどんどん短くなって行く。
久し振りに前髪も作った。
……まだ制服着られるかも。
妙に幼くなった自分の姿を見て、笑いそうになってしまう。


「肩凝り、治りますかねえ」
「治る、治る」
「髪洗う時、腰が痛くなったりするのも治りますかねえ」
「治る、治る〜」
そんなやりとりの後、里菜は美容院スタッフに見送られてお店を出た。
まだ外は暑かったけれど、何だか清々しい思いだった。


河川敷を歩いた。
風が吹く。
……また、走り出せる。
そんな思いに駆られて。
里菜は河口に向かって走り出した。
暑くても。
息が切れても。
心は弾んで飛べる気がした。
……大丈夫。もう、大丈夫。


そして。

里菜は海へと走って行く。




(終わり)






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