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「おぉ、ジュリアン、ちょうど良かった。
さぁ、入ってくれ。」
ネイサンの話によると、ポールの葬儀は、明日、この町の教会で執り行われることに決まったとのことだった。
「ネイサン…本当にすまない。
俺のせいでポールをあんな目に遭わせちまって…」
「ジュリアン…何を言ってるんだ。
確かにポールは俺の弟みたいな存在だったからショックは大きいが、奴が死んだのがあんたのせいだなんて思っちゃいない。
それどころか、あんたには感謝してるんだ。
もし、あの日、あんたが俺にくっついて炭坑に来なかったら…
あの石を俺にくれなかったら…俺は、きっとあの場所に行ってたと思うんだ。
あそこで死んでたのはポールじゃなく俺だったかもしれないんだ。
ポールはまるで俺の身代わりになったようなもんだ…」
「ジュリアンさん、ネイサンから話は聞きました。
私もあなたには感謝してます。
あなたがネイサンを引きとめてくれてなかったら、きっとネイサンは…
この子は、父親の顔を知らずに生まれて来ることになってたと思います。」
「ほんの少し、なにかが変わっただけで俺みたいに命拾いする者もいれば、ポールのように命を落とす者もいる…
だが、それは人間にはどうしようもないことなんだ。」
ジュリアンは、こみ上げる涙を止める事が出来なかった。
人間にはどうしようもない現実を、自分が変えてしまったことへの複雑な想いが熱い涙となってジュリアンの瞳から溢れ出た。
「ジュリアン…昨夜、シャーリーと話し合って決めたんだが…
もしも生まれて来た子が男の子だったら、ポールって名付けようと思うんだ。」
「ネイサン…!!」
「そして、その子にいっぱい話してやるんだ。
死んだポールの話をな。」
笑顔でそう話すネイサンの瞳には、溢れそうな涙が浮かんでいた。
「……ありがとう、ネイサン!!」
「なんで、あんたが礼を言うんだよ。」
「良いじゃないか!
ありがとう!
本当にありがとう!!」
ジュリアンは、ネイサンの両手を握り、何度も何度も礼を言った。
そんなことで自分の罪が消えるとは思っているわけではないが、ポールのことを大切に考えるネイサン夫妻のことがジュリアンにはとても嬉しかったのだ。
*
「じゃあ、元気でな!
奥さんと生まれて来る子供を大切にな!」
「あんたも元気でな。
近くに来ることがあったらいつでも寄ってくれよな!」
ポールの葬儀が済むと同時に、ジュリアンは町を離れた。
町外れまでジュリアンを見送りに来たネイサンに手を振りながら、ジュリアンは漠然とこの先のことを考えていた。
どうか、この先の旅ではあの力を使うような機会が来ないようと心の中で静かに祈った。
『ジュリアン…今回もまた繋がったぞ!
今回は繋がらないと思っていたのに、昨日、急にな…
おまえのおかげだ。後少しですべてが繋がる…そうしたら…』
「……ネイサンの子は男の子かな…?」
ジュリアンは俯いたまま、ぽつりとそう呟いた。
エレスの話はジュリアンの耳を素通りしていたようだ。
『え…?』
「そうだよな。
きっと、男の子だよな…?」
『……あぁ……きっとそうだ。』
エレスのその返事に、ジュリアンが顔をあげて微笑んだ…
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