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『おいおい、なにをぼーっとしてるんだ。
鼻の下が伸びてるぞ…』

「ぼ…ぼーっとなんかしてねぇよ!
ただ…ちょっとうらやましいなぁと思って…」

『ちょっとどころじゃなさそうだな。
しかし、残念ながら、おまえみたいにがさつで単細胞の男を好いてくれる物好きの女はなかなかいないだろうなぁ…』

「ば、ばっきゃろー!!
俺だって、けっこう…」

『けっこう何なんだ…?』

「……なんでもねぇ!」

エレスとジュリアンがそんな会話を交わしている脇をかすめて、一人の男がアルドーの元へ駆けて行った。



「す、すみません!」

「はい。なんでしょう?」

「あなたは、『愛しきもの』の作者のアルドーさんですよね?」

「ええ…そうですが…」

「あぁ、良かった…
気がついたらあなたの絵がなくなってたのであわてて追いかけて来たんです。
私はこの先の町で画廊を開いているバルザックと言う者です。
あなたの絵に一目惚れしました。
あなたの絵をうちの画廊で扱わせていただけないでしょうか?」

息を切らしながらも、男はそう一気に話しきった。



「バルザックさん、からかわないでください。
私は、ただの素人ですよ。
さっきのコンテストでも入賞すら出来なかった。
優賞したロナウドの絵とは比べ物にはなりません。」

「確かに彼の才能はすごいものだ。
きっと素晴らしい画家になると思います。
ですが、絵には好みというものもあれば、どこに飾るかということも重要です。
たとえば、小さな子供のいる家のリビングに、ロナウドさんの先ほどの絵があったらどうでしょう?
あの絵は本当に素晴らしいものですが、だからといって子供達に良い影響を与えるでしょうか?
その点、あなたの絵は…なんというのでしょう…
やわらかな日差しを浴びているような心地良さがあるのです。
穏やかで安心で、つい居眠りをしてしまいそうな、そんな心地良さがあるのです。
ああいう絵をリビングに飾ったら、きっとその家の家族はいつも和やかな気持ちでいられると思うのですよ。」


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