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「母さん、待って!
私…何も死のうとしたわけじゃないわよ!」

「だって、あんた…」

「私は…あの百合を…」

「百合?」

「そう…ハリー、覚えてる?
私みたいな花だって言ってくれたあのオレンジ色の百合の花。
ハリーがこの町を出て行ってから、私は毎日寂しくなるとあの花を見に行ってたの。
あの花を見たら、あなたと川辺りを散歩したあの日のことが思い出されて、一時でも寂しさを忘れることが出来たから。
ハリケーンであの百合が流されてしまうかもしれないと思ったら、なんだかいてもたってもいられない気持ちになって…」

「それで、あの百合を取りに行ったのか?」

「そう…やっと手が届いたと思ったら、足元が滑って川に落ちてしまって…」

「馬鹿野郎!!
もしも、俺達が間に合わなかったらどうなってたと思うんだ!!
そんなことになったら、皆がどれほど悲しむか考えなかったのか!!」

「ご、ごめんなさい、ハリー…」

「ハリー、マージも反省してるんだ。そうきつことを言うなよ。
とにかく、無事で良かったじゃないか。
それに元はといえば、あんたがマージに何も言わずに出て行くからこんなことになったんだぜ。
許してやんなよ。」

「……そうだな…」







ジュリアンが部屋に戻ると、エレスがにこやかな顔でジュリアンを出迎えた。



「どうしたんだ?えらく機嫌の良い顔をして…」

『うまくいったようだな。』

「見てたのか?」

『いや…わかったのだ。』

「わかった?どういうことだ?」

『そのうちにわかることだ…』

ジュリアンのその問いに、エレスはそう答えると詳しいことは話さずにただ微笑むだけだった。



「チェッ、またそれかよ!」







やがて次の日、ジュリアンはこの町を離れることにした。
気にかかっていた二人のことが丸くおさまり、ジュリアンは清清しい気持ちを感じていた。



「ジュリアン、本当に世話になったな。
気が向いたら、またいつでも訪ねてくれよ!」

「ジュリアンさん、どうもありがとうございました。
私達がこうなれたのも、あなたが下さったあのガーネットのおかげかもしれませんね。」

「ガーネット?何のことだ?」

「ハリーは気にしなくて良いの!」

「ハハハ…じゃあ、二人とも元気でな!」



ハリーとマージに手を振りながら、ジュリアンは歩き出した。
傍らを歩くエレスは、昨日からずっと嬉しそうな顔をしている。



「おい、なんでそんなににやにやしてるんだ?」

『ちょっと嬉しいことがあってな…』

「で…その嬉しいことってのは秘密なんだな?」

『その通りだ…』

「……やっぱりな…」

相変わらずマイペースなエレスに、ジュリアンは小さな溜息を吐いた…


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