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宿の前では心配したマージの両親が、不安そうな顔をしながら立っていた。
ぐったりとした娘の姿に混乱する両親に向かって、ジュリアンはあれこれと指示を出す。
マージはかなり弱っているようではあったが、死んではいなかった。
幸いなことに、宿の泊り客に医者がいたため、マージはすぐに適切な手当てを受ける事が出来た。
「マージ!しっかりするんだよ!」
「先生!マージは、マージは大丈夫ですか!?」
「大丈夫ですよ。
危ない所でしたが、水も吐かせましたし、もう命に関わるようなことはないでしょう。
このまま暖かくして安静にしていれば、明日の朝には目を覚ますでしょう。」
「ほ、本当ですか!」
「良かった…本当に良かった…」
医師のその言葉にほっとしてジュリアンの身体の力が抜けた。
一気に身体と張り詰めていた精神の緊張がほぐれ、ジュリアンはそのままその場所で眠りに就いてしまった…
*
「マージ!!」
「マージ、わかるかい?
気分はどうだい?」
「父さん、母さん…私…」
(……ん…?ここは?)
目を覚ましたマージ、そしてそれを喜ぶ両親の声でジュリアンは目を覚ました。
激しかった風雨はずいぶんとおさまり、空からは静かな雨が降っているようだった。
「お客さん、マージが目を覚ましたんですよ!
昨夜は本当にどうもありがとうございました!」
「あ……マージ…!
気が付いたんだな…!
良かったな!本当に良かった!」
「ジュリアンさんが助けて下さったんですね。
ありがとうございました。」
「何を言ってるんだ。
あんたを助けたのはハリーだよ。」
「ハリーが?!
まさか…!ハリーはこの町を出て行ったんじゃあ…」
「それが、違っててな…
実は、ハリーは…」
そこまで言いかけてジュリアンの言葉が止まった。
「ハ、ハリーは戻ってないのか?
ここに来ていないのか?」
「え…ええ。
あなたがマージを運んで来て下さった後は、ここには誰も…」
「そ…そんな…」
「ジュリアンさん、ハリーは…ハリーはどうしたんです?!」
「流されてるあんたを、川に飛び込んで助けたのはハリーだ。
あんたを助けた後、奴は歩けないほど衰弱しててな。
自分は大丈夫だから、早く、あんたを宿屋へ運んでくれって言うんで、俺はあんたを背負ってここまで来た。
……じゃあ…ハリーは…!!」
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