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「で…でも、万一…万一、イヴが良いって言ってくれたとしても…
お、俺、本当にイヴを幸せに出来るかな…
俺…こんなだし…」
『もちろん、今のままでは無理だろうな。
イヴはおまえに石掘りをやめろとは言わないと思うが、やめるべきだろう。
何か定職をみつけて一つ所に留まってイヴを守っていかねばならん…』
「石掘りをやめる…?
ずっと同じ場所に留まる…?
……俺、十六の時から家を離れてあちこち放浪してるんだぜ。
そんな俺に、一つ所に留まるなんて…」
ジュリアンは小首を傾げ、俯きながらなにかを考えるように黙りこむ。
『それは、今までのおまえには守るべき者がいなかったからではないのか?
イヴが家でおまえの帰りを待ちながら、部屋の中を綺麗に掃除し、夕食を作っていてくれると思ったら、どうだ?』
「……そ、そりゃあ…まぁ…」
ジュリアンは頬を染め、いつもとは違うとても小さな声で答えた。
『それに加えて子供でも出来たら、おまえのことだ。
すっ飛んで帰るのではないか?』
「こ、こ、子供って…誰の?」
『……馬鹿か、おまえは。
当然、おまえとイヴの子供に決まっているだろう…』
「こ、こ、こ………」
ジュリアンはうわずった声を出すと、口許を押さえ、そっと俯く。
混乱のピークに達したジュリアンの真っ赤な顔からは、滝のような汗が流れて、エレスはそれを見て、肩を震わせる。
『おまえが相手では、イヴは燃えあがるような火のような情熱は感じられないだろうが、日だまりのような穏やかな愛情を感じられると思う。
それで良いのではないだろうか…
命を燃やすような勢いはなくとも、長く続く愛があれがきっとイヴは幸せになれると思う…
若いうちは物足りなさを感じることはあるだろうが、年をとればとる程、おまえのよさを感じるようになると思うぞ。』
「……そうだよな。
イヴが俺のことをめちゃめちゃ好きだなんて感じたことはない。」
『当たり前だ。
おまえのように気の利いた愛の言葉さえ言えない男に、誰がそんな熱い想いを感じると思うんだ。』
「……でも、それでも良いっておまえは考えてるんだな。」
ジュリアンに見透かされ、エレスは困ったような顔で失笑する。
『ま、そういうことだ。
おまえは、イヴを裏切ることは決してないだろう。
イヴにとって必要なのはきっとそういう馬鹿みたいに一途で誠実な男なのだ。』
エレスの言葉に、ジュリアンは大きな溜め息を漏らし、両手で頭を抱える。
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