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『そんなことはありません。
イヴ…この男こそ黴菌だらけだから触らない方が良いですよ。
おまえ、今日はまだ顔も洗ってないのではないか?』

「あ……」

ジュリアンは、エレスにずばりと指摘され、決まりの悪い顔をして頭を掻いた。



『早く洗って来い。
さ…イヴ…手を……』

「本当に良いんですか?」

『ええ、全然構いませんよ。
こいつはとても不潔ですから、それで触るなと言っていただけですから。』

「お、おい……」

ジュリアンの心配をよそに、エレスは大胆なことを言い、イヴの手がゆっくりと伸ばされた。
エレスは、イヴの傍らに腰をかがめ、そっと手を取る。




「あ……」

イヴの指は確実にエレスの手を掴み、エレスはそれを自分の顔に誘導した。
イヴは、エレスの顔を両手で確かめるようにゆっくりとまさぐり、ジュリアンはその様子を息を飲んで見守る。




「……やっぱり、思った通りだわ…
エレスさんはとてもハンサムなのね…
それに、肌がとても滑らかで女の人みたい…」

イヴは、ほんのりと頬を染め、うっとりしたような声で溜め息混じりに呟いた。



『ありがとう、
君もとても可愛いですよ。』

「まぁ…エレスさんったら…」

イヴのはにかみようは、まるで可憐な少女のようだった。



『……なんだ。
まだそこにいたのか。
早く顔を洗って来たらどうなんだ。』

「ちょ…ちょっと……」

ジュリアンは、エレスの腕を掴んで立たせ、洗面所に連れこんだ。



「おいっ!どうなってんだ!
なんで、あの子にはおまえが触れるんだ!?」

声を潜め、ジュリアンはエレスに詰め寄った。



『そんなことは私にもわからん。』

「じゃあ、なんで、イヴにはおまえが触れるってわかったんだ?」

『わかったわけではない。
声が聞こえるだけではなく、私の気配もしっかりと感じているようだから、もしかしたら…と思っただけだ。』

「なんだって!?じゃ、確証もないのに触らせたっていうのか!?
もし触れなかったら、どうするつもりだったんだ?」

『どうって…触れないなら触れないで仕方がないではないか。』

「し、仕方ないだと!?
そんな事になったら、イヴがびっくりして怖がるだろ!」

『残念ながらそこまで考えてはいなかった。』

「な、なんだって!こ、この無神経野郎!!」

『喧嘩は後だ。
あまり長い間話していたらおかしく思われるぞ。
私は戻っているから早く顔を洗って来い。』

「お、おいっ!」


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