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『ジュリアン、誰か来てるぞ。』
「う…うぅん…
誰が来たって…?
こんな朝っぱらから…誰なんだ…ったく……」
急に起こされたことで不機嫌極まりないジュリアンは、眉間に皺を寄せ、目をこすりながらゆっくりと起きあがる。
ちょうどその時、遠慮がちに叩かれた扉に、ジュリアンの眉間の皺は深さを増した。
「誰だ、こんな朝っぱら…あ……」
苛立った声で、乱暴に扉を開けると、そこに立っていたのは昨日会ったイヴだった。
「ご…ごめんなさい。
まだ起きてらっしゃらなかったんですね。」
「い…いや、あの……」
『気にすることはありませんよ。
こいつは普段から起きるのがすごく遅いんです。』
口篭もるジュリアンの代わりに、エレスが横から口を挟んだ。
「あなたは、昨日の…」
『そうです。
エレスと言います。』
「エレスさん…」
エレスの穏やかな声に安堵したのか、イヴの顔に小さな笑みが浮かんだ。
「一体、どうしたんだ?
いや、そんなことより、あんた、足の怪我はもう良いのか?」
「はい。手当てもしてもらいましたし、うちからここまではすぐですから。
あ……あの、昨日はどうもありがとございました。」
「何?もしかしてわざわざそんなことを言いに来てくれたのか?」
イヴは照れ臭そうに小さく頷く。
「それと……つまらないものですが、パンを焼いたので持って来ました。」
イブは持っていた袋をジュリアンの前に差し出した。
受け取った包みはまだ温かく、そのパンが焼きたてだということを感じさせた。
「あぁ、それでさっきからパンのにおいがしてたんだな。
うん、すごくうまそうだ!
これをあんたが焼いたのか?
すごいじゃないか。」
ジュリアンは受け取ったパンの袋をのぞきこみ、関心したような表情でイヴをみつめた。
「そんなこと、すごくなんてありません。
……私はこれからもっといろんなことが出来るようになりたいんです。
そのためにはもっともっと頑張らないと…」
「イヴ……だったよな?
あんた、頑張り屋さんなんだな…」
イヴは、ジュリアンの言葉に何度も首を振る。
「こんなんじゃまだ駄目…!
周りの人に迷惑をかけないように、もっとがんばらないといけないんです!」
ジュリアンは、声を荒げたイヴの顔を黙ってみつめる。
「イヴ…」
ジュリアンはイヴの手を握り、イヴはその行為に驚いたように反射的に身を逸らした。
「あ……」
「ご、ごめん。驚かせちまったか?
せっかくだから、一緒にこのパンを食べようぜ!」
「え…でも…」
「いいから、いいから。」
ジュリアンに半ば強引に手を引かれ、イヴは渋々長椅子に腰掛けた。
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