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「ぼ、僕は、本当にそんなことしてないのに…」
「ディック、おまえ、わからないのか!
誰がそんなことをしたのか…おまえのためにそんなことをする奴は一人しかいねぇじゃないか!」
ディックにはそれが誰だかわかったらしく、口を開け両手で頭を抱えた。
「ラリー…」
「そうに違いねぇ…奴は、おまえと疎遠にはなっても、ずっとおまえのことを考えてたんだな…」
「なんてことだ…僕はそんなことにも気付かずに…」
「ディック、そろそろ出発するぞ。」
自警団の男が檻を開け、ディックの腕を荒縄で縛る。
「ディック、身体に気を付けてな!」
「ありがとう…あ、そうだ、あんたの名前は?」
「俺はジュリアンっていうんだ。」
「ジュリアン、本当にいろいろありがとう。
あんたのおかげで僕は救われたよ。」
「俺はなにもしてないさ。
あんたのおふくろさんやラリー達のおかげさ。」
ディックは、自警団の男二人に伴なわれ馬車に乗りこみ、ライナスとジュリアンは、詰所の前でそれを見送った。
「あ…ラリーだ…」
ライナスの指差す先には、駆けて来るラリーの姿があった。
「ラリー!
ディックは今行った!
あの馬車だ!」
ジュリアンは馬車の走り去った方を指差しながら大きな声で叫んだ。
ラリーは頷き、方向を変えると馬車の跡を追って駆け出した。
「ディーーーーーッック!!」
ラリーはディックの名を呼びながら走り続ける。
「ん……?」
声に気付いた自警団の男が窓から顔を出す。
「あれはラリーじゃないか…」
「ラリーが…!?」
「馬車を止めるか?
少しだけなら…」
「いや…止めないでくれ。
僕は……ラリーにあわせる顔がない…」
「しかし…良いのか?
この機を逃したら当分会えなくなるぜ。」
ディックは黙ったままで頷いた。
「そうか、わかった…」
馬車は速度を緩める事なく走り続ける…
その後を追うラリーの息は切れ次第に速度が落ち、やがて、彼はその場に座りこんだ。
軽く息を整えたラリーは、すべての体力をこめて大きな声で叫んだ。
「ディックーーーー!
待ってるからなーーーーー!」
その声は離れて行く馬車の中のディックの耳にしっかりと届いた…
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