「こ…こんなこと……」

目の前の信じられない光景に、ジュリアンはなす術もなく立ち尽していた。



「わ!な、なんてことだ!」

騒ぎを聞きつけた近所の住人らしき男が、扉から中をのぞいて驚きの声を上げた。



「この町に自警団はあるか?
あの男を引き渡したい。
あいつが、スージーを…」

「ディックじゃないか!
あの野郎、まだスージーのことを諦めてなかったのか!
よし!待っててくれ!今、皆を呼んで来るからな!」

男は外へ駆け出した。



「ラリー…」

先程の男は、数人の男達と共に息をきらしながらすぐに戻って来た。
その間、ラリーはスージーを抱き締めたまま涙を流すばかりで、ジュリアンの言葉もラリーの耳には届いていないようだった。

ディックは、男達に両脇を押さえられながら連れ去られて行った。



「ラリー、大丈夫か?」

ラリーは、ただただ涙を流すばかりで、ジュリアンの声に返事をしない。



「ラリー!」

先程の男の呼びかけにもラリーは、顔を上げることはなかった。


「……すまないが、ラリーのことを頼む…!」

男に向かってそう言い残し、ジュリアンは宿に向かって駆け出した。







ジュリアンは、テーブルの上のエレスチャルに恐る恐る手を伸ばす…
エレスチャルに指が触れようとした瞬間、ジュリアンの手が弾かれたように遠退いた。



『……ジュリアン…何かあったのか?』

いつの間にか石の中から現れたエレスが、ジュリアンに問う。



「エレス…スージーが…スージーが…男に刺し殺された…」

「スージー?……あぁ、ラリーの妹だな?
なぜ、そんなことになったんだ?』

「俺にもよくわからないが…
俺とラリーが家に行ったら…もう刺し殺されていて、その傍に男がいた…」

『そいつが犯人だったのか?』

「そうだ…」

『……それで、おまえは今何をしようとしていたんだ?
まさか、あの力を使おうとしていたのではあるまいな?』

「エレス……俺…どうしたら良いか、よくわからないんだ。
だけど…やっぱりあのままにはしておけない…!
さっきのラリーの姿を見てたら、なんとしてもスージーを助けなきゃならないって気になって…」

『そうやって、万一、スージー以外の誰かが死んでも構わないのか?
この前のポールのように…』

その言葉に、ジュリアンの瞳は大きく見開かれた。


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