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夜がすっかり更け、辺りは暗闇に包まれた。
時間は深夜零時を回っている。
美紗は一度家に帰っていたが、青年の指示通り、家族に悟られぬよう、そっと家を出た。
結婚式の帰りと違い、今はだいぶ厚着をしているが、それでも痛いほどの冷気は身体中に纏わり付く。
その分、空気が澄んでいるのであろうか。
天を見上げると、無数の星達が空を覆い尽くさんばかりに瞬いている。
(あの大宇宙から見たら、人間なんて、ただのちっぽけな生き物にしか見えないのかも知れないわね)
そんな事を考えながら、美紗はそれらに魅入っていた。
「おい、星に気を取られてんじゃねえよ」
ぼんやりと星を眺めていた美紗に、冷ややかな突っ込みが入った。
美紗はハッと我に返って首を下げると、いつの間に現れたのか、すぐ隣に、昼間に出逢った青年が立っていた。
青年はニヤリと笑いながら、「お前、何を考えてたんだ?」と訊ねてくる。
「妙に物思いに耽った顔してたからさあ。――まさか、変な妄想でもしてたんじゃないだろうな?」
「ちっ……違……!」
大声で否定しようとしたら、美紗の口は青年の手によって塞がれた。
「静かにしろ。今、何時だと思っているんだ?」
小声で青年に諭され、美紗は言いかけた言葉を飲み込んだ。
「言い訳なら、後でじっくり聞いてやる。
それよりも、とっとと行くぞ」
美紗の口許から手を離すと、今度はその手で彼女の手を取る。
「なな……な……!」
「いちいち騒ぐな」
またしても大声を上げそうになり、青年に一喝されてしまった。
「本当は、奴の近くに行った方が良いが、さすがに今日ばかりは遠慮すべきだろうからな。
まあ、一か八かやってみるさ」
青年はそう言うと、未だ動揺している美紗をよそに、何やら呪文らしきものを唱え始めた。
と、その時、眩い光が目の前に現れる。
美紗は咄嗟に目を強く閉じた。
心なしか、身体がふわりと宙に浮いたような、そんな感覚があった。
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