――少しの間だけでもいい。どうか、彼女の心を救ってくれないか……
 見えない天の川に、僕は強く願った。
 彼女の幸せは、僕の幸せ。
 彼女の哀しみもまた、僕の哀しみなのだ。
 ――僕はただ、彼女の笑顔が見たいだけだ……
 そう思った、まさにその時だった。
 わずかではあったが、空を覆っていた暗雲が、風に押し退けられるように移動した。
 星が、見えた。
 幼い頃から彼女と共に見ていた天の川が、僕の想いに応えるように顔を覗かせたのだった。
「嘘……」
 咄嗟に呟いたのは、彼女の方だった。
 僕と同様、今日は天の川どころか、小粒の星さえ見られないだろうと思っていたのだろう。
「今日って、予報は雨だったはず……よね……?」
 僕に改めて確認する彼女。
 僕は「ああ、確かに……」と答えた。
「これから雨が降るはずだったけど……」
「じゃあ……予報は外れ……?」
「そういう事になるだろうな」
 そんな会話が交わされた後、僕と彼女は、再び口を閉ざした。
 真剣な眼差しで天の川を見つめ、ここぞとばかりに願い事を託した。
 いい年をして――と笑われるかも知れない。
 だが、今の僕には関係ない。
 笑われようが、コケにされようが、何よりも、彼女の幸せを願いたかった。
 ふと、彼女を見ると、彼女もまた、瞳を閉じながら胸の前で手を合わせ、何かを祈っている。


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