「――もう少しだけ……待って……」
 やっと出たのがこれだった。
「『もう少し』って、どれだけ?」
 彼の問いに、私は暫し考える。
「じゃあ……高校を卒業するまで……」
「うっ……」
 私が答えると、彼は短く唸った。
 彼に背を向けている状態になっているため、表情までは窺えないが、きっと、口許を引きつらせている事だろう。
 言った私自身も、ちょっと長過ぎるかと思ったほどだ。
「――分かったよ……」
 彼は溜め息交じりに言うと、私を解放してくれた。
 自由になった私は、彼の方を振り返る。
「まあ……ルカがそんな簡単に応えてくれるとは思ってなかったけどさ。――でも、ほんのちょっぴり期待してたんだぜ」
「ご、ごめん……」
「いや。元々、謝らなきゃいけないのは俺なんだし……。
 でも、卒業したら、絶対に答えをくれよな。さすがに、それ以上は限界だ」
「――うん……」
 私が頷くと、彼は嬉しそうににっこりと微笑んだ。
 そして、何を思ったのか、私の手を強く握った。
「えっ!ちょっと……」
 振り解こうとしたが、さすがに男の握力は相当なものだ。
「今日ぐらいは許せよ」
 彼は私の手を取ったまま、悪びれもせず続けた。
「これからしばらくは、ルカと手を繋ぐ事なんて出来ないんだからさ」


the end


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