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「――終わり?」
亜梨花は瞳を開くと、不満げに俺を睨んだ。
「何か、愛情を全く感じない」
「そ、そういう問題じゃないだろ」
「じゃあ、どういう問題よ?」
頬を膨らませている亜梨花を見下ろしながら、俺は少しばかり考える。
「――やっぱり、公衆の面前でキスってのは不味いだろ」
「ふうん……」
まだ、亜梨花は機嫌が直らないらしい。
「なら逆に言うけど、貴之だって、何堂々と人を抱いてんのよ?」
それを言われると、返す言葉が見付からない。
俺は小さく溜め息を吐いた。
「分かったよ……。それじゃあ、後で幾らでもしてやるよ」
「してやる、って……。何て言い方……」
「いや! 別にそんなつもりじゃ……」
最早、亜梨花にはどんな言い訳も通用しない。
俺はガックリと項垂れるしかなかった。
その時、亜梨花から何かを堪えるような声が耳に届いた。
よく聴いてみると、それは明らかに笑い声だった。
「――何笑ってんだ?」
「ご、ごめん……っ……ぷぷっ……」
亜梨花は苦しそうに一頻り笑った後、俺を見つめてきた。
「もう。私の言葉に素直過ぎるぐらい反応してくれるんだもん。もう、おっかしくて」
「――別に可笑しくないだろ……」
こればかりは、さすがの俺もムッとしてしまった。
亜梨花は笑って出た涙を指で拭うと「だからごめんって!」と言った後、打って変って真剣な眼差しを向けてきた。
「でも良かった。貴之の本当の気持ち、ちゃんと知る事が出来たんだもん。
これからは、不安を抱えずに済みそう」
亜梨花の言葉に、俺の口許が綻ぶのを感じた。
もちろん、全く懸念がないわけではないのだが。
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