「でも、逢えて嬉しい。貴之ってば、全然帰って来ないんだもん。小母さんからはちょくちょく様子を聞いていたけど、それでも心配で……」
「そっか。――悪かったな」
 俺がそう言うと、亜梨花は「本当よ」と恨めしげに睨んできた。
「そりゃあ、私も悪いけどさ。でも、私達はずっと、〈兄妹〉みたいなもんだったんだから。――やっぱり、避けられるのって凄く辛いから……」
 亜梨花のこの言葉に、治まりかけた鼓動が再び速くなった。
 自分には亜梨花を幸せに出来るような資格はない。
 そう言い聞かせてみても、もう一人の俺は亜梨花を欲しいと訴え続けている。
「ねえ」
 亜梨花が怪訝そうに俺の顔を覗き込んでくる。
 自分を真っ直ぐに見つめるその瞳も、昔と変わっていない。
 澄んだその瞳とまともに目が合うと、俺の心音は更に高くなる。
 亜梨花はそんな俺の動揺には全く気付いていないようで、小首を傾げながらも「ちょっと歩こうか?」と促してくる。
「あ、ああ」
 俺が頷くと、どちらからともなく歩き出す。
 俺達の間のには、暫しの沈黙が続いた。
 聴こえてくるのは、鬱陶しささえ感じさせる蝉の鳴き声と、元気に駆けずり回る子供達の歓声。
「――私ね」
 ふと、亜梨花が口を開いた。
「あの時、貴之に振られるなんてこれっぽちも考えてなかった。だって、私達はずっと一緒だったから……。
 本当、私ってば、自惚れにもほどがあるわ。貴之にとっては、私はただの〈幼なじみ〉でしかなかったっていうのに……」
 口許には笑みを湛えているものの、そう告げる彼女の表情はどこか淋しげに映った。
 それを見ていたら、今度は胸のときめきと入れ替わりに、小さな痛みを感じた。
 自分はこの地を離れると決めていた。
 だから、亜梨花の想いに応えられなかった。
 どんなに親しい間柄だったとしても、〈距離〉という壁を乗り越えるにはあまりにも困難だ。
 だからこそ突き放したつもりだった。
 亜梨花に、哀しい想いをさせたくないと思ったから。
 しかし、それは亜梨花のためではなく、結局は自分のためだった。


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