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大きな荷物もあるという事で、私達は先に、貴之のアパートへと向かった。
貴之の部屋は二階の一番奥にあり、階段を登り切ってからも更に歩いた。
「ちょっと持ってろ」
貴之は持ってくれていた私の大型バッグを差し出し、私が手に取るのを確認すると、ポケットから鍵を取り出して、それをドアの鍵穴に差し込んで回す。
カチャリ、と鍵の外れる音が聴こえた。
「電話でも言ったけど、散らかってるからな」
言い訳がましく告げてくると、貴之は私に、中に入るよう促してきた。
「お邪魔します」
私はバッグを持ったまま靴を脱いで上がると、その場にしゃがみ込んで、空いている方の手で靴の向きを正した。
それから、貴之を追うように中へと足を踏み入れる。
中の構造は、入ってすぐの場所に四畳ほどの狭い台所、更に奥に入ると六畳間が一つ。
外観でも思ったが、本当に独身男性向けのアパートだ。
「適当に座ってろ。飲み物でも用意するから。――と言っても、ウチには烏龍茶とビールぐらいしかないけどな」
苦笑しながら言うと、貴之は台所へと戻った。
私はその間、貴之に言われた通りに手近な場所に正座し、同時に荷物も側に下ろした。
改めて、部屋の中をグルリと見回す。
散らかっている、と言っていたが、私はさほど気にはならなかった。
毎週のように買っているであろう少年漫画誌は、邪魔にならないように隅の方に重ねてあるし、衣類も比較的、綺麗に並べてかけられている。
何より、無駄な物が殆どないという印象を受けた。
「なに人の部屋を観察してんだよ?」
貴之が台所から戻って来た。
その両手には、琥珀色の液体が満たされたグラスが握られている。
色的にも、ましてやまだ午前中なのだから、ビールではない事は確かだ。
「ほらよ」
貴之は手に持っていたグラスのうちの一つを、私の前に置いた。
「ありがとう」
私は礼を述べてから、早速それに手を伸ばし、口を付けて喉に流し込んだ。
貴之はそれを見ながら、グラスを持ったまま、私の隣に胡坐を掻いた。
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