美雨は立ち上がった。
 美雨が今、身に纏っているのは、普段は着る事がない純白のウェディングドレス。
 ウェディングドレスは子供の頃からの憧れであるし、実際に着られたというのは嬉しいのだが、やはり、いつも着ている服に比べると、遥かに動きづらい。
 途端に、美雨の身体がよろめいた。
 だが、それをタイミング良く、彼がしっかりと受け止める。
「大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい……」
 美雨は身体を離そうとしたが、彼がそれを許さなかった。
「えっ! ちょっと……!」
 美雨がもがけばもがくほど、彼の力は一層強くなる。
「せっかく、雪乃ちゃんが気を利かせてくれたんだから」
 言い訳がましく言う彼に対し、美雨は思わず溜め息を吐く。
 こうなってしまっては、もう、何を言っても無駄だ。
 美雨は半ば諦めたように、彼に身体を預けた。
(でも、彼とこうしているのは、決して嫌じゃない、かな)
 美雨は瞳を閉じた。
 彼の優しい温もりが、匂いが、美雨を安心させる。
 彼を救うつもりでいたが、本当は、自分が彼と出逢えた事で癒されたのではないだろうか。
 彼に抱き締められながら、美雨は思った。


 外では雨が止む事を知らずに降りしきる。
 あの時と同じ、二人を包み込むように、幸せへと導いてゆく。
 六月の、雨の奇跡――


The end


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