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彼が言いかけた時、「もしもーし!」と呆れたような声がそれを遮った。
側にいた雪乃である。
「――あんた達、私の存在をすっかり忘れてたでしょ?」
雪乃に言われ、彼と美雨は同時に「あ……」と声を出し、気まずそうに互いを見つめ合う。
そんな二人を、雪乃は口を尖らせて睨んだ。
「別にいいんだけどさ。どうせ、ここでの邪魔者は私だしね。
はいはい。出て行きますよお! 本番になるまでは、なるべく誰も近付かせないようにするから、存分に二人の世界を作っちゃってよ!」
つっけんどんな物言いをしている割りには、気遣いも全く忘れない。
控え室から出て行こうとする雪乃に、美雨は「ありがとう」と告げた。
雪乃は美雨達を一瞥する。
「私、別に何にもしてないけど」
そう言い残し、今度こそその場から姿を消した。
雪乃が去った控え室は、雪乃が言った通り、本当に二人だけの世界となった。
「ねえ」
美雨は彼を見上げた。
「さっきの続き、聞かせて。『でも』の後」
「あ、ああ」
彼は一呼吸置いてから、先ほどの続きを口にした。
「何と言うか……あの時から、ちょっとばかり、美雨との未来が見えていたような……。いや……本当に馬鹿げていると自分でも思うが……」
彼はそこまで言うと、照れ臭そうに何度も頭を掻いた。
美雨から小さく笑いが漏れる。
「おい……。何がおかしいんだ……?」
怪訝そうに訊ねる彼に、美雨は「違うわよ」と答えた。
「おかしいんじゃなくて、嬉しいのよ。あなたも、私と同じように運命を感じてくれていたんだな、って」
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