あれから五年の歳月が流れた。
 外は朝から雨が降り続いていた。
 天気予報でも、今日は夜まで雨だと告げていたから、止む事はないだろう。
「あーあ、こんな日に雨なんて……。今日ぐらい晴れてもいいのにねえ……」
 美雨の隣で、妹の雪乃(ゆきの)がうんざりしたようにぼやいている。
「雪乃は雨が嫌いだっけ?」
 そんな雪乃に美雨が問いかけると、雪乃は「当たり前でしょう」とあからさまに呆れていた。
「大体、雨は良い事なんて一つもないじゃん。
 まず、音が煩いでしょ。臭いも嫌だし、食べ物にはすーぐカビが生えちゃうし……」
 雨嫌いの条件を指折り数えながら答える雪乃に、美雨は思わず苦笑してしまう。
 雪乃の言っている事は尤もである。
 特に六月の雨は、何かと鬱陶しささえ感じてしまうものだ。
 だが、美雨は雨を嫌いだとは思っていない。
 むしろ、今は雨に感謝しているほどである。
(そう。あの日がなければ……)
 美雨が想いを馳せていた時であった。
「美雨」
 心地良い低い声が、美雨の耳に響いてきた。
 美雨はハッと顔を上げる。
 そこにいたのは、今まさに美雨が想っていた相手。
 あの雨の日に出逢った彼である。
「どうした? 緊張してるのか?」
 気遣うように訊ねてくる彼に、美雨は「ちょっと」と答えた。
「でも、緊張よりも、信じられないって気持ちの方が大きいかな。――確かに、あの時は、少なからずあなたに運命を感じたけど、まさか、一緒になれるなんて思いもしなかったから」
「そうだな」
 美雨の言葉に、彼は微笑を浮かべる。
「俺も、美雨とここまで辿り着けるとは考えてもいなかったよ。でも……」


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