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一度溢れ出た涙は、留まる所を知らない。
本当に、女とはこういう時に厄介だ、と美雨は人事のように思った。
「あんたは、優しいな」
彼は柔らかな口調で言うと、傘を持っていない反対側の指で、美雨の涙を拭った。
美雨は瞳を潤ませたまま、彼を仰いだ。
彼は優しさを湛えた双眸で美雨を見つめ返しながら、口許には小さく笑みを浮かべている。
「俺のために、泣いてくれたんだろう?」
「そ……それは……」
改めて訊かれると、美雨もさすがに答えに窮してしまう。
美雨が戸惑っている中、彼は何を思ったのか、先ほどの美雨同様、今度は彼女の頬に触れてきた。
美雨の胸は一気に高鳴る。
「温かいな」
彼は呟くと、何度も頬を擦ってくる。
まるで、美雨の存在を確認するように。
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