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「いえ。別に気にしないで下さい。独りで溜め込むより、誰かに話した方が、あなたも気が晴れるでしょう?」
初めて逢う男に、随分と大胆な発言をしている、と美雨も自分で驚いていた。
だが、彼は決して、ただの他人とは思えない。
もし、この世に本当に〈生まれ変わり〉というものがあるのだとしたら、彼とは遠い過去から、見えない糸で繋がっていたのかも知れない。
美雨は本来、運命などは全く信じていないのだが、この時ばかりは彼に〈何か〉を感じた。
(彼を苦しみから救う事が、私の使命ならば……)
美雨は腕を伸ばし、未だに濡れている彼の髪に触れる。
しっとりとした冷たさが、指先を通じて伝わってくる。
それを感じながら、今度はその手を、彼の頬へと滑らせた。
ふと、そこに涙の痕を見たような気がした。
雨に降られただけとも取れるが、美雨は、ここで彼が独りで泣き続けていたのだと確信した。
男は女と違い、軽々しく人前では泣けない。
美雨も男泣きを見た事がないわけではないが、それでも、女よりも目にする回数は遥かに低い。
彼が傘も差さず、雨を浴び続けていた理由。
それは、自分の涙を隠すためのものでもあったのだろう。
彼の孤独を感じた途端、美雨の瞳から涙が零れ落ちた。
突然の事に、彼は瞠目してそれを見ている。
「――どうした……?」
静かに彼が訊ねてくる。
「――あなたの……想いが……」
やっとの思いで美雨は言ったが、これ以上は言葉を紡ぐ事が出来なかった。
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