「いえ。別に気にしないで下さい。独りで溜め込むより、誰かに話した方が、あなたも気が晴れるでしょう?」
 初めて逢う男に、随分と大胆な発言をしている、と美雨も自分で驚いていた。
 だが、彼は決して、ただの他人とは思えない。
 もし、この世に本当に〈生まれ変わり〉というものがあるのだとしたら、彼とは遠い過去から、見えない糸で繋がっていたのかも知れない。
 美雨は本来、運命などは全く信じていないのだが、この時ばかりは彼に〈何か〉を感じた。
(彼を苦しみから救う事が、私の使命ならば……)
 美雨は腕を伸ばし、未だに濡れている彼の髪に触れる。
 しっとりとした冷たさが、指先を通じて伝わってくる。
 それを感じながら、今度はその手を、彼の頬へと滑らせた。
 ふと、そこに涙の痕を見たような気がした。
 雨に降られただけとも取れるが、美雨は、ここで彼が独りで泣き続けていたのだと確信した。
 男は女と違い、軽々しく人前では泣けない。
 美雨も男泣きを見た事がないわけではないが、それでも、女よりも目にする回数は遥かに低い。
 彼が傘も差さず、雨を浴び続けていた理由。
 それは、自分の涙を隠すためのものでもあったのだろう。
 彼の孤独を感じた途端、美雨の瞳から涙が零れ落ちた。
 突然の事に、彼は瞠目してそれを見ている。
「――どうした……?」
 静かに彼が訊ねてくる。
「――あなたの……想いが……」
 やっとの思いで美雨は言ったが、これ以上は言葉を紡ぐ事が出来なかった。


- 92 -

しおりを挟む

[*前] | [次#]

gratitudeトップ 章トップ




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -