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気が付くと、彼女と同じ道を歩み始めてから二年の歳月が流れていた。
出逢った日も計算に入れれば、既に七年である。
(時の経つのは早いな)
星の瞬く夜空の下を歩きながら、蒼介(そうすけ)は思った。
蒼介には恋人がいた。
彼女とは高校からの付き合いで、大学に進学し、更には就職してからも続いた。
ただ、結婚に関してはなかなか踏み出せなかった。
彼女は、蒼介からのプロポーズをずっと待っているように感じたが、蒼介の中で、もう少し、自立出来るほどの余裕が出来るまではと考えていたからであった。
それに、生きてさえいれば、いつでも彼女に伝える事が出来る。
そう信じていた。
ところが残酷な運命は、事故という形で二人を引き裂いた。
雨の降りしきる日、彼女は傘を差しながら青信号に変わった横断歩道を渡っていた。
そこへ、物凄いスピードで一台の車が迫って来た。
当然ながら、車道側の信号は赤。
彼女は停まるであろうと信じ、そのまま歩き続けた。
しかし、車の速度は一向に落ちない。
それどころか、雨で路面が濡れているのも手伝い、スピードは更に増してゆく。
――そのまま、彼女はなす術もなく身体を飛ばされた。
その惨劇は、蒼介は直接見ていなかったが、たまたま近くに目撃者がいて、数日後、その人から事故の一部始終を聞かされた。
彼女は即死だった。
何が起こったのかも分からぬまま、天に召されてしまったのだ。
蒼介の憔悴は、言葉では言い尽くせないほど酷いものだった。
彼女の死を受け入れられず、棺に納まり、目を閉じている彼女を見ても、単純に寝ているだけとしか思えなかった。
だが、彼女が火葬される時になって、初めて、彼女と永遠の別れとなる事を実感させられた。
地獄のように燃え盛る炎の中に、彼女が眠る棺はゆっくりと入れられてゆく。
このまま、彼女を燃やしてしまう火を消し去ってしまいたい衝動に駆られたが、何故か、身体は金縛りに遭ったように動かない。
これで、全てが終わってしまった。
彼女が燃やされている間、蒼介は自分が空っぽになってしまったような、そんな虚しさを感じていた。
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