ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ
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***



「なんということを……」



桂葛は、血に染まり絶命した翔の亡骸を前に、一粒の涙を流した。



『人間というものは、これほどまでに心の弱い者なのか…』

「翔という者は……頼りない所も過分にはありましたが、真面目で善き心を持った者だと思います。
きっと、翔にはどちらか一方を選ぶことが出来なかった。
いや…人を殺めるということが出来なかったのだと思います。
それによって、二人にかける迷惑のことを思い、翔は自ら命を絶ったのではないでしょうか?
確かにそれは翔の弱さでもありますが、その反面、優しさや強さでもあったのではないかと思います。
奴は、自分の命をもって、二人に償った……」

桂葛はそう言って、唇を噛みしめた。



『……桂葛よ。
もし、母親と朱花がただの幻だと知っていたら…
翔はどちらかを選ぶことが出来ただろうか?
幻とはいえ、本物と全く変わらぬように見える二人に、短刀を突き刺すことは出来たと思うか?』

「いえ…
おそらく、出来なかったと思います。」

『そうか……』

主様はそう言ったっきり、何かを考えるように一点をじっとみつめた。



『……桂葛よ、後のことは私に任せるが良い。
お前はもう下がれ。』

「……はい。では、失礼いたします。」



翔の亡骸に、未練のこもった視線を残しつつ、桂葛は静かにその場を後にした。


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